巻ノ五 三好清海入道その六
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「好き嫌いなくな」
「それがし何でも食べまする」
「嫌いなものはないか」
「はい、何も」
清海はその太い眉を綻ばせて幸村に答えた。
「ありませぬ」
「ではこれからもな」
「何でも食べることですな」
「偏ることなくな」
「何でも偏ることなく食するのがよいのですな」
「食は医術でもある」
だからこそというのだ。
「身を整えるにはまず食からじゃ」
「強くなる為にも」
「そういうことじゃ。わかってくれたか」
「存分に」
「ならよい、それでは」
ここでだ、幸村は酒を一杯飲んでだった。そのうえで。
あらためてだ、清海を入れた四人に言った。
「では今日は休み」
「はい、明日の朝早くですな」
「ここを発ちそしてですな」
「岐阜に向かう」
「そうしますな」
「そして根津甚八という者に会おう」
そうしようというのだ。
「是非な」
「あの、殿」
清海がここで右手を挙げて幸村に言って来た。
「その根津以外にもです」
「どうしたのじゃ」
「はい、一人面白い者を知っております」
「それは誰じゃ」
「それがしの弟で三好伊佐入道というのですが」
「その者も僧侶か」
「僧兵でありまして共に比叡山におりました」
その山にというのだ。
「それがしが山を追い出された時に共に山を出まして今は山奥の寺で修行中です」
「その弟も破戒僧か?」
由利は眉を顰めさせて清海に問うた。
「飲む食う暴れるの」
「いやいや、わしとは違いな」
「暴れ者ではないのか」
「これが落ち着いていて真面目なのじゃ」
「つまり御主の出来が悪いだけか」
「ははは、わしは花和尚じゃからな」
笑ってこうも言う清海だった。
「獲物も同じじゃしな」
「鉄の錫杖か」
「重さも同じじゃ」
水滸伝に出て来る豪傑の一人その花和尚魯智深の錫杖と、というのだ。
「それを振るって武器としておる」
「それで御主が魯智深でか」
「弟は真面目でな」
「全く違うか」
「酒は飲むが控えておる」
あまり飲まないというのだ。
「身体は大きいがな」
「そこは兄弟同じか」
「うむ、しかし真面目で礼儀正しく頼りになる者じゃ」
「ではその者も我等と共に真田家に入られるか」
海野は餅を咥え引き伸ばしながら言った。
「どうなのじゃ」
「強さはわしと同じ程度でとかく真面目でな」
「心根もよいか」
「うむ、わしがそのことを保障する」
「左様か」
「では殿」
清海の言葉を聞いてだ、穴山が幸村に声をかけた。
「その三好伊佐入道という者も」
「拙者の家臣にじゃな」
「迎え入れたいと思うのですが」
「そうじゃな、会ってみてな」
「そのうえで、ですな」
「うむ、そしてな」
そのうえでというのだ。
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