巻ノ五 三好清海入道その一
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巻ノ五 三好清海入道
幸村は土俵の上で三好清海入道と向かい合っている、その両者を見つつだった。周りの者達は口々にこう言っていた。
「あの若武者は真田の若殿らしいのう」
「次男殿とのことじゃ」
「何でも相当お強いらしいが」
「幾ら何でもな」
清海をみるとだった。
「今度の相手はな」
「勝てぬぞ、あの男は」
「うむ、これまで鬼の様な怪力で勝って来た」
「あの大きな身体でな」
「去年そうじゃったがあの坊主は強い」
「食うし飲むだけはある」
清海を知っている言葉だった。
「あの者が負ける筈がない」
「あんな強い者はおらん」
「それでどうして勝てるのか」
「勝てる筈がない」
それこそというのだ。
「真田の若殿も強いが」
「相手が悪過ぎるわ」
「またあの坊主が勝つぞ」
「それで餅と酒を一人占めじゃな」
「そうなるな」
「必ずな」
こう話すのだった、しかし。
穴山達三人はだ、その周りの声を聞いて余裕の笑みを浮かべそのうえでこう言っていた。
「ははは、普通はそう思うな」
「うむ、確かにあの坊主は強い」
「まさに鬼じゃ」
実際に清海と勝負をした海野も言う。
だが、だ。それでもこう話すのだった。
「しかしじゃ」
「殿を甘く見ぬことじゃ」
「殿はお強い」
「あの坊主でもな」
「勝てぬわ」
「殿にはな」
こう言うのだった、そしてだった。
穴山は由利と海野にこんなことを言った。
「強さとは何かじゃな」
「それじゃな、あの坊主は剛じゃが」
「殿は柔じゃな」
二人もこう答える。
「殿は柔術の心得もある」
「相撲にもそれを使われる」
「まさに柔よく剛を制す」
「そうした相撲をされるからな」
「力もお強いが」
幸村は剛も持っている、しかしというのだ。
「むしろ柔じゃ」
「それであの坊主の剛にどう勝つか」
「見ものじゃな」
三人は幸村の勝ちを確信していた、そして。
清海は幸村を見てだ、こんなことを言った。
「真田家の次男殿じゃな」
「左様」
幸村は土俵の上で清海の問いに答えた。
「真田幸村でござる」
「ふむ、身体は小さいが」
普通程度だが大柄なことこの上ない清海から見ればそうなるのだ。
「しかしここまで来たし身体つきもよい」
「そう言って頂けますか」
「御主、相当に出来るな」
清海もこのことを見抜いた。
「そうじゃな」
「そのことは」
「まあ謙遜ならよい、わしは謙遜はせぬが他人の謙遜には言わぬ」
清海は笑って幸村のそれはよしとした。
「とにかくじゃ」
「はい、これからですね」
「わしは御主を倒してじゃ」
そしてと言うのだった。
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