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乗せた首
4部分:第四章
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第四章

「この様に。御覧になられてますね」
「わかっておる。またこれはどうしたことなのか」
「どうすれば宜しいでしょうか」
 勝宏は困り果てた顔で義満に問う。
「このままでは困ります。やはり首は肩の上にしっかりついてからこそなので」
「わかっておる。このままではそなたも不憫じゃ」
 義満も考える目で述べる。
「これは。安倍殿に頼むか」
「安倍殿といいますとあの」
「うむ、あの安倍殿じゃ」
 また兵の一人の言葉に応える。安倍といえば安倍清明を出した有名な陰陽師の家でありこの時代も代々朝廷の陰陽師を輩出しているのである。その筋の名家である。
「あの方ならば何とかしてくれるかもな」
「それではすぐに」
「まあ待て」
 何とかしてくれるかもと聞いて希望で焦りだした勝宏に対して言う。
「焦ることはない。安倍殿のところへはわしが手紙を書いておく」
「手紙をですか」
「うむ。これ」
 左右に残っていた腹心の一人に声をかける。
「紙と筆を」
「はい」
 腹心はその言葉に頷く。程なくして紙と筆が持って来られ義満はそれにすらすらと何かを書いていく。それが終わるとすぐに勝宏達に告げるのだった。
「これを持って安倍殿の屋敷まで行け」
「安倍様の」
「そうじゃ。事情は書いておいた」
 そう勝宏に言う。
「これで大丈夫じゃ。きっとな」
「きっとですか」
「うむ。それにしてものう」
 あらためて勝宏を見る。
「御主。よく生きておるものじゃ、全く」
「まことに不思議です」
 彼はまた言う。
「私もどうして生きているのか。何故でしょう」
「それも安倍殿が話してくれるだろう」
 義満もこう言うしかない。如何に彼といえどこれまではわからなかった。
「わしが出来ることはここまでじゃ。それではな」
「はい。それでは」
 勝宏は義満に対して頭を垂れる。そうして彼に礼を言うのだった。
「有り難うございました。ここまでして頂いて」
「世とて人じゃ」
 義満は礼を述べた勝宏に対して言う。
「戦が終われば無駄な命を取ろうとまで思わぬ。そういうことじゃ」
「左様ですか」
「では行け」
 また彼に告げる。
「吉報を待っておるぞ」
「はい」
 勝宏はすぐに安倍の屋敷に向かった。屋敷の家まで来るともうそこには背の曲がった肌の黒い得体の知れぬ男がいた。
 勝宏は彼の姿を見て眉を顰めさせる。不気味な男だと思った。
「何だ、こいつは」
「奥田勝宏殿か」
 男は彼の名を問うてきた。
「わしの名を知っておるのか」
「如何にも」
 肩の上の首のバランスを何とか取っている勝宏に対して答えた。
「話は聞いている。私が安倍だ」
「貴方が」
「そう。さあ」
 その時男の身体がふっと消えた。そうして黒い公家の礼服を
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