4部分:第四章
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着た若い男になった。見れば流麗な整った顔をしている。何処か女性的な趣きさえある。
「その手に持っているのが室町殿からの手紙だな」
「はい。そうですが」
室町殿とは足利義満のことをさす。公家達は彼のことをそう呼んでいるのだ。
「大体のことはわかっているが。読ませてもらえるか」
「勿論です」
勝宏は彼に手紙を差し出して述べた。
「その為に持って来たのですから」
「うむ。それでは」
「ええ。ところでですね」
片手で首を押さえもう片方の手で手紙を差し出しながら彼に問う。
「何か?」
「何故私がここに来るのがわかったのでしょう。事情まで」
「教えてもらったのだ」
「教えてもらった?」
「そう。夢で閻魔大王にな」
すっと薄く笑ってそう述べる。
「御会いして教えてもらった。閻魔帳に載っていない死人が来ると」
「それはまさか」
「そう、それがそなただ」
安倍は彼に言った。
「奥田勝宏殿、貴殿だ」
「閻魔帳に名前が載っていなかったのですか」
閻魔帳のことは彼も知っている。それに載っていないと聞いてまずは安心した。
「しかし私は今こうして」
「間違いは何処にでもある」
安倍は彼にそう告げた。
「間違って死ぬこともな。そなたと同じように」
「私と同じようにですか」
「そうした場合は死なぬ。今のそなたのようにな」
「はあ」
ここまで聞いてようやく全てがわかった。全てを理解した彼はあらためて思案する顔になるのだった。理解したうえである。
「それではですね。この首は」
「安心せよ。なおる」
安倍は穏やかな笑みと共に彼に言った。
「すぐにな。それにはだ」
「それには?」
「来るがいい」
彼に対して屋敷の中に入るように言う。
「庭の中の井戸までな」
「井戸ですか」
勝宏は井戸と聞いて目を丸くさせた。
「今水を飲んでもすぐに首から出てしまうので」
「何も飲む為ではない」
安倍はいぶかしむ彼に対して述べた。
「洗う為だ」
「洗う?」
「そう。いいから早く来るのだ」
「わかりました。それでは」
「うむ」
こうして彼は安倍の屋敷の中へと入り庭の井戸の前まで案内されたのであった。
見れば普通の井戸だ。勝宏はその井戸を見て安倍に問うた。
「ここですか」
「左様、ここだ」
安倍は穏やかだがしっかりとした様子で彼に答えた。
「ここがそなたを救う場所だ」
「ここがですか」
「さあ」
安倍は井戸から水を汲み出してきた。そうしてその水を勝宏に差し出す。
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