第十七夜「螢」
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その光で彼女の顔がはっきりと見えた。
「ありがとう…和彦。私ね、もう一度二人でホタルがみたかったの…。」
彼女はその細くなった手で俺の手を握り締め、顔を上げて言ってきた。
「私、もう行かなきゃ…。」
とても弱々しい声だった。辺りには無数のホタルが飛び交っている。
「何言ってんだよ。きっと来年だって…」
悪い予感を払拭すべく紡いだ言葉は、彼女の言葉によって宙に四散していった。
「もう、分かってるでしょ?ごめんなさい…。私、和彦のことが好き。大好き。ずっと一緒に生きて行きたかった…。でも、もう限界…。だから…ホタルになるから…。和彦が幸せであるように…」
「バカ、もうそれ以上言うな!」
俺は彼女を抱き締めた。今にも壊れそうな躰を、強く、強く抱き締めた。そうしなければ…彼女が逝ってしまいそうだったから。
でも、無駄だった…。
「和彦…あなたは絶対…幸せにな…って…。私は…かずひ…こに…であえて…しあ…わせだっ…た…よ……」
それが…彼女の最期の言葉だった。
「そんな…嘘…だろ…?ユミコ…?優美子っ!」
彼女の燈が消えたのを見届けたように、無数のホタルは天高く舞い上がり、そして散って行ったのだった。
その時、不意に理解した。
優美子は…俺だけに看取られたかったんだって…。
どれくらいの時が経ったんだろう。
僕は、もう動かなくなった優美子を、ずっと抱き続けていた。段々と冷めてゆく彼女の躰を、ずっと強く…ただ、強く抱き締めていた。
「優美子…ゆっくり休んでくれ…。」
涙も枯れはてた俺は、力なく天を見上げた。
さっきまで彼女と見上げていた星空は、今も変わることなく広がっている。
ただ…優美子が居なくなっただけだと言うように。
「…あれ…?」
そんな無常な星空から、一つの光が降りてきた。
フラフラと、まるで…。
「…螢…?」
もう一匹も居なくなってしまったと思っていたホタルが、まるで何かを忘れたかのように天から降りてきたのだ。
そのホタルは、僕と冷たくなってしまった優美子の周囲をユラユラと漂いながら、不意に俺の肩に止まった。
それから何回か光を点滅させると、またフラフラと飛び始めた。
俺は何となく、それが優美子の魂なんじゃないかと思った。
「…優美子…。」
そっとホタルに向かって彼女の名を囁いた。
すると、そのホタルは己が呼ばれたのだと悟ったのか、数回点滅を繰り返し、優美子の亡骸に舞い降りた。
俺の目からは、枯れ果てたと思っていた涙が止め処なく溢れてきていた。
「優美子…!」
愛していた…。
俺は彼女のことをどこまでも愛し、守り続けたかった。
結局、その想いは果たされることはなか
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