4部分:第四章
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第四章
「そういうことだ。十一世紀のパスタなぞ」
「年代ものは年代ものですが」
「流石に食べられはしないな」
「その通りです」
「では何の意味もない。本当に何の意味もない宝だ」
「売れもしませんしね」
「誰も買うわけがない」
憮然とした顔で述べるカルロだった。
「あんなものはな」
「ではどうされますか?」
「置いておけばいい」
そしてこう言うのだった。
「あの場所にな。元に戻してな」
「それだけですか」
父の今の言葉を聞いて意外と言わんばかりの顔を見せるジュゼッペだった。
「それでいいのですか」
「捨ててもどうにもなるものでもない」
少し憮然として述べた言葉だった。
「あんなものな。今価値があるわけでもない」
「それは確かに」
「食べられもしない。それに捨てるのもな」
「捨てても」
「何か癪だ。あの時代の我が家の資産の半分を使って手に入れたものだ」
それがどれだけのものかはもう言うまでもなかった。やはり相当な価値なのだ。少なくとも当時は。それを考えるとどうにも捨てる気にはなれないカルロなのだ。
「だったらな。置いておく」
「左様ですか」
「財産目録には書いておけ」
そしてこうも言うのだった。
「そういうものがあるとな。はっきりとな」
「わかりました」
そしてジュゼッペも父の言葉に頷くのだった。一礼して応えてから述べる。
「それではそのように」
「頼むぞ。それではだ」
「それでは?」
「今日の昼食だが」
話はそこに移るのだった。カルロが移させていた。
「食べたいものがある」
「何でしょうか」
「パスタだ」
彼が言ったのはそれだった。
「パスタだ。どうだ」
「そうですね。私も何か」
「食べたくなったか」
「それもフェットチーネを」
自然とそれを言うのであった。
「食べたくなりましたね」
「そうだな。ではそれもシェフに伝えてくれ」
「はい」
「今日の昼はフェットチーネにしてくれとな」
「わかりました。それではそれも」
「ソースは。まあ何でもいい」
それには今日は特にこだわっていないのだった。
「別にな」
「ではそれはシェフに任せて」
「そうしよう。それではな」
「はい、それでは」
「この話はこれで終わりにしよう」
「ええ」
ジュゼッペが最後に頷いて話は終わった。わかってみれば何という話ではなかった。だが少なくとも昼に何を食べるのかは決まったのだった。それを考えると決して無駄な話ではないと言えた。フェットチーネを食べることは思いついたのだから。
宝物とは 完
2008・11・17
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