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幻影想夜
第十六夜「ハッピー・プリンス」
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時だった。
「その告白、ちょっと待った!」
 音楽室の扉を一気に開けて、黒崎が入って来たのだ!
 対する柳澤先輩はポカンとして黒崎を見ている。そんな先輩を余所に、黒崎は私の前に歩み寄ってこう言い放ったのだ。
「お前を幸せに出来るのは俺しかいねぇ!」
 そういうや否や、私の手を取って駆け出したのだ。
 私は何が起きてるのか今一把握出来ず、黒崎に引かれる儘に走り出していたのだった…。

 この話しは、翌日には学校中に広まっていた。普段は地味な活動しかしてない新聞部(在ったこと自体忘れていた)の所為だ!

号外!!
<ハッピー・プリンス、音楽室でプリンセスを奪還!?>
 こんな見出しで、どうやって撮影したのか、私と黒崎が手を取って廊下を走ってる写真がデカデカと載っていた。それが校内の至る所にある掲示板に張り出されていたのだ!!


  ☆  ☆  ☆


「あの時は大変だったわよねぇ?あなたったら、私を裏庭へ連れ出した途端に“結婚してくれっ!”ですもの。」
「勘弁してくれよ。それは言わないお約束だろ?今思い出しても顔から火が出そうだよ…。」
「あら?私と結婚したこと後悔してるの?」
「そ、そんなことは絶対にない!むしろ、あんな幼稚な告白で、よく君がずっと一緒に居てくれたと思うよ…。」
「あらあら、今更?私はあなたの熱意に恋をしたの。そして今も…。」
 あの初夏の見えた季節から早十五年。今年もあの頃と同じ初夏の陽射しが降り注ぐ。
「母さ〜ん、ご飯まだ?」
 息子が居間に顔を出した。
「あら嫌だ、もうそんな時間だったのね?すぐに支度するから、お父さんと一緒にいてちょうだい。」
 私は立ち上がってキッチンに向かったけど、息子が何か手に持ってる物が見えた。

―あら?あれは確か…―

 私は気付かぬフリをして隣のキッチンに入ったけど、暫らく耳をすまして聞いていた。
「父さんって、ハッピー・プリンスだったんだね!」
「た、太陽(たかあき)っ!どうしてそのあだ名をっ!?」
 フフッ、やっぱり息子が持っていたのは、私たちの高校時代の卒業文集だったのね。
 居間からは、父親の情けない声と息子のしてやったりの笑い声が響いていた。


  ☆  ☆  ☆


「俺と結婚してくれっ!ずっと裏庭のお前を見ていたんだっ!」
 黒崎は裏庭へ出た途端、私に告白してきた。私は柳澤先輩に言われた時よりも、なぜかすごく嬉しかった。
「ずっと…大切にしてくれる?」
 私は彼に尋ねた。彼は私を強く抱き締めて…こう囁いた。
「ずっと大切にする。どんなことがあっても離さないっ!」
 私はこの言葉を聞いて安心した。今まで心の中でモヤモヤしていたものが、一気に晴れたようだった。
 私は彼を抱き返して、その言葉にこう
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