異伝:自ら踏み外した崖へ 後編
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生き残るかもしれないし、死ぬかもしれない。その程度だ。ただ単純にやりたいことをやれてよかったという充足感があった。
実に呆気なくて、馬鹿みたいに軽い死という言葉。
その未来に、何故か俺は安らぎさえ感じていた。
俺はその結果にある程度満足しながら、フィールド外の崖へと落ちていった。
あなたを求めるほどに、別れる瞬間は身が裂かれるように辛くて――
それくらいなら、世界なんて滅んでしまえばいいとさえ思うよ――
(歌、声?)
少女の声が、聞こえた。幼くて、綺麗な声だった。
僅か数秒にしか満たない筈の落下時間がスローモーションになるような錯覚まるでそう、意識だけが加速しているように、ゆっくりと空を落ちる。
ふと気が付いた時には、私は既に貴方の背中を追い続ける事に――
安寧さえも感じていて、それがあるべきカタチだと確信してしまってた――
ここにいるためなら、私は輝く明日さえも捨て去っても構わないから――
それは、まるで破滅へと歩むようで、なのに不思議と暖かく、終わりへと歩み寄るような歌。
そう、SAOから離れることを心の中で拒絶していた俺が、崖の下へ堕ちていくのを肯定するような歌だった。何所の誰なのかは分からないが、気の利いた事をする。
告別歌――俺みたいな男には勿体無いくらいに、綺麗な歌。
歌の歌い手を一目みたいな。そう思って、虚空に手を伸ばす。
――その手を、小さくて暖かな手が握った。
まっさかさまに、抱きあいながら空へと堕ちてゆこう――
私が求める貴方の目を、声を、心を、運命さえも通わせて――
だって、貴方の居ない世界なんて、灯のともらない夜のように虚しいから――
空に融けそうなほどに純白く淡い、翼のような髪を広げた、一人の少女。
まるで天使――告死天使。俺の魂をあるべき場所へといざなおうと言うのか。
その目は――何故か、俺の良く知っている目に見えた。
それは、なにもない空疎な未来を迎えるということだから――
せめて、色彩のない世界を生きることなどせずに――
貴方との鮮烈な日々を胸いっぱいに抱きながら――
少女が、手を引き寄せて俺の身体に抱き寄せられる。
――そうか、と俺は奇妙な確信を得た。
彼女もまた、行き場所がないんだろう、と。
このゲームがクリアされたとき、MHCP-008はその存在意義を無くして、この世界から消え去る。
偽りの意志が迎える運命は、偽りの世界の消滅との道連れを除いて他にない。
そんな光のない未来を待ち続けるくらいなら――夢中になった男と最期を迎える事をMHCP
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