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Impossible Dish
第三食
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「……こんな場所に()()なんてあったかしら……」

 翌日の午後、薙切邸の隅っこにえりなの姿があった。彼女の小さな手の上で不安げに風に煽られている小紙は、確かに目の前のポイントを図示していた。
 日本食界を統括・支配する薙切家は当然裕福な家庭だ。そのため自然と屋敷も大きいもので、並の一軒家を数個並べたところでもまだ足りないくらいの敷地面積を誇る。幼いえりなにとって移動が面倒くさく、また家政婦さんも忙しそうだ、くらいにしか思わないのだが、それでも家主であることに変わりなく、家の隅々まで知り尽くしているつもりだった。

 つもりだった、というのは掌の紙に印されている場所は、えりなの記憶が正しければ何も無い場所だったのだが、どういう訳か目の前には一般家庭のリビングほどの大きな倉庫があるのだ。
 薙切は伝統的な武家屋敷の造りをしており、構成物質は木材・石が主だ。見た目はもちろん、内装も体系的に(なぞら)えているはずだが、忽然と現れた倉庫は入り口だけ木材で出来ているものの、他は金属類で作られていた。
 
 家主が気づかないだけあって、不思議な倉庫は屋敷の一番端、極めて言うなら()()()()()()()()()()()()場所にあった。正面玄関から最も離れた場所であり、えりなの私室からも結構な距離がある場所だ。
 強いて推察すれば薙切家の誇る厨房からはそこそこの距離なので、食材を貯蔵しておくための離れ倉庫なのかもしれない。

 我が家のことながらどこか他人事のようにそう考えたえりな。なぜ彼女がここに赴いたのかと言えば、仙左衛門に言われた通り、直接なおとにクレームを言いつけようとしたからだ。尤も、実際には文句はこの紙に印してある場所に行って言いなさい、とだけ言われているのでなおと本人がそこにいるかは解っていないのだが。

 突如現れた謎の倉庫を怪訝に思いつつ、えりなは木戸に手を添えた。倉庫なのだから鍵がされているものだと思っていたが、予想に反して木戸はすんなり口を開いた。
 すっと横へスライドさせたその先は、暗闇だった。晴れやかな外と対照的に陰鬱とした薄暗さに包まれた倉庫内。暗闇に目が慣れていないせいでえりなは倉庫内の全貌を見ることが叶わない。
 灯りがないか適当にすぐ傍の壁に手を這わせるとスイッチらしきものに指先が触れ、迷わずそれを押した。

 カチッ、と小さな音が鳴った次の瞬間、えりなの視界は白に塗りつぶされた。

 紙だ。古紙、藁半紙、上質紙、あらゆる紙が無差別に倉庫内を埋め尽くしていた。壁には隙間が無いほどびっしりと紙が貼り付けられており、一枚一枚に何か文句が印されている。床にも天井に届きそうなほど高く積み上げられた紙束が幾つもあり
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