番外編:Birthday Of Victor
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た。
その言葉を聞いた瞬間、彼の目が怒りの余り赤く染まった。
ラルがもう二度と子供を作れない体になったにも関わらず言われた言葉。
そして何より―――
「エルは……俺の娘は―――この世に一人しかいないっ!!」
皮肉なことにその言葉を否定する様な言葉を彼は娘に言ってしまう事になるのだがこの時の彼はまだそんなことなど知らない。
彼は最愛の妻が身を削ってまで生んでくれた愛娘を利用しようとするもの全てに怒りを露わにし、かつての仲間と自分の味方にならない兄へと刃を向けた。
それこそが―――愛が憎しみへと豹変した時だった。
「くくく……ははは、あーはっはっは! やっぱり俺はお前達のことを憎んでいるみたいだ!」
血の海が広がり仲間達の死体が沈んでいるその中心地でルドガーは泣きながら狂ったように笑っていた。
そんな弟の変わり果てた様子に唯一生き残っている兄、ユリウスは自分が守ってやれなかったことに苦悶の表情を浮かべながら武器を構え直した。
「ルドガー……本当にこれでよかったのか?」
「じゃあ、他にどうしろって言うんだよ!?
エルを守る為にはみんなを―――兄さんを殺すしかないじゃないか!」
「お前、そこまで……」
呆然とするユリウスをよそにルドガーは悲痛な雄叫びを上げて骸殻に変身し、ユリウスに襲いかかる。
ユリウスはそんな弟の様子に何かを悟ったように目を閉じて武器を捨て去る。
刹那、響き渡る、肉が貫かれる音。
「兄さん……なんで?」
「ルドガー……ごめんなぁ」
槍に貫かれた状態にも関わらずユリウスは酷く穏やかな顔つきで、ルドガーの頭を撫でる。
その事に訳が分からず、ルドガーは兄の顔を見つめる。
「お前がこんなにも苦しんでいるのに俺は気づいてやれなかった……兄貴失格だな」
「兄…さんっ!」
「俺が……最後に……送るプレゼントだ。……俺の時計を持っていけ」
そう言ってユリウスは最後の力を振り絞って傷だらけになった自分の時計をヴィクトルに差し出す。
ルドガーはそれを戸惑った表情で見つめるがやがて全てを納得したように時計を受け取る。
それをユリウスは今まさに槍で貫かれているにもかかわらず満足げに見つめる。
そして、最後の最後にかすれた声で呟く。
「お前は……お前の世界を…作るん…だ……」
完全に力尽きたユリウスは愛する弟にもたれかかりながら満足げな顔で逝く。
そんな様子に兄はただ自分を守りたかっただけなのだと今更ながらに理解しルドガーはその場に崩れ落ちる。
兄弟で殺し合う事になってしまったのは二人がクルスニク一族に生まれてしまったから。
その事実が彼の心に深い悲しみをもたらす。
「うああああーーーー
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