番外編:Birthday Of Victor
[2/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
女にとっても彼にとっても酷く―――残酷な物だった。
「“ルドガー”の……嘘つきっ!」
「……っ!」
彼は“エル”との約束を破り彼女を見捨てた。
本当は今すぐにでも駆け寄って抱きしめてやりたかった。
だが、世界はそれを許さなかった。
彼はただ自分を見つめる憎悪の籠った少女の目を記憶にとどめる事しか出来なかった。
世界を救う為に“エル”を見捨てた。だが、そんなものが免罪符になるわけもない。
彼は罪悪感で永遠と苦しみ続ける。
だが、それでも世界を救うために、アイボーの死を無駄にしない為に彼は歩き続けた。
そして彼はカナンの道標を全て揃えることに成功した。これで全てが報われると信じていた。
だが―――
「どうして……カナンの地が出現しないんだ? まさか……この世界は―――分史世界!?」
告げられた真実はどこまでも残酷な物だった。
彼の世界もまた―――“偽物”だったのだ。
「そうか……何もかも無駄だったのか……。エルの死は―――無意味な物だったのか!」
彼はアイボーの死が何の意味もない死だったことに絶望した。
世界が偽物だったことに心を砕かれた。
そして全ての事から逃げる様にエージェントの仕事も辞めてただ生きる屍となった。
偽物の世界の為に犠牲にしてしまったアイボーに、自分を呪うアイボーに、深く懺悔をしながら。
彼は毎日をただ、何の目的もなしに生きていた。
死ぬことも何度も考えたが唯一の家族である兄がそれだけはやめてくれと泣きながら頼んできたのでそれは出来なかった。
趣味であり特技である料理もせずに食事も殆どとっていなかったがある日、運命の出会いをして彼は絶望の淵から抜け出す。
ある日、飼い猫のルルに連れ出されて渋々ながら外に出ていた時、突如としてルルが駆け出して行ってしまったのだ。
その事にいぶかしがりながら追っていってみるとかつてのアイボーを思わせる髪の色をした一人の女性にじゃれ付いていたのである。
ルドガーはよくルルに餌をくれる人なのかと思いながらその女性に近づいていく。
「すいません、家のルルが迷惑をかけています」
「この子、ルルちゃんっていうんですね。可愛い名前ですね」
そう言ってじゃれていたルルから目を上げて彼を見る女性。
その瞬間彼は彼女の目に釘づけになった。
なぜなら、その女性の瞳はアイボーと同じアメジスト色だったからだ。
その事実に亡きアイボーのことを思い出して懐かしさと罪悪感から涙を零すルドガー。
女性は突然の事に戸惑いながらもルドガーを心配してくる。
「だ、大丈夫ですか?」
「いや……大切だった人と同じ色の目をしていたんで」
「そうなんですか……。だとしたら私達に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ