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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十八話 敗軍の将は以て勇を言うべからず
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 若い中佐の言に豊浦は無表情のまま頷く。
「後衛戦闘隊の将兵達の奮闘、まことに痛み入る。今後も苦しい戦いが続くだろうが貴官らの奮闘に期待する」

 その後もいくらかの丁重な社交辞令を交わし、退出すると豊浦は一人鼻を鳴らす。

「――成程?」
 この件は報告事項の一つとするべきだろう。西原家が聞き逃してならない事だ。



同日 午前第九刻 史沢市 近辺 東方辺境鎮定軍鎮定第2軍団司令部
第二軍団司令官 アイヴァン・ルドガー・ド・アラノック中将


「閣下、潮時と見るべきです」
 ラスティニアン参謀長は脂汗を拭う事もなく言った。
「背天ノ業を甘く見ておりました。蛮軍は我々以上に戦況を把握しております。
これ以上、部隊を分散させ続ける事は危険です」

 アラノックも苦々しい顔を隠さない。それほど予想外の事態であった。
「反撃を行った部隊の規模はどうなっている、総崩れになったのではないのか?」

「包囲を破った敵兵はこの国の近衛です、大凡四千から五千、猛獣使いの部隊も確認されています。
こちらの被害は戦死者五〇〇 負傷者二六〇〇 名です」

「アレクサンドロス作戦において蛮軍の反攻主力を担った第三軍の追撃を担当していた部隊は、後衛戦闘隊主力と、同じく猛獣使いが後続の猟兵旅団を伏撃、砲兵大隊を含む三個大隊を壊乱、側道の掃討と側面攻撃を企図していた騎兵連隊も猛獣使いにより損害を受け後退。
この時点で北西部を担当していた部隊は戦死者四〇〇 負傷者一六〇〇 です」

 ラスティニアンは分析した結果を告げる。苦い物であろうとも報告を怠る事はできない。
「敵の後衛部隊は活発な組織的運動を可能としていることは疑いようがありません
主力部隊を再集結させ、龍兵と騎兵による先行偵察を密にするべきです」
 アラノックはしばし黙考した。どうするべきか、龍州軍は叩くべきだ、救出にあてがわれた部隊も半個旅団程度、部隊を集結させれば屠れぬことはない。してやられはしたがこちらはさほど問題でもないだろう。
 問題は北西方面だ、敵の主力軍は健在とは言えなくとも組織的行動が可能な状態なのは確かだ、部隊を複数個所に集中させて限定的だが逆襲すら行っている。
 だがこれは――機会でもある、そう考えるべきだ。
「――よかろう、部隊を集結させ増強旅団単位で追撃を行う。我らと北西部の部隊は汎原を集結点とし行軍する。
南西方面の部隊は弓野を目指し、北西方面と合流させる、事後は吠津から皇龍道を突破、蛮都を制し、この戦を終わらせる」

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