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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十八話 敗軍の将は以て勇を言うべからず
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が炸裂した――偽装を施されていた擲射砲隊がその姿を現したのである。

 この擲射砲隊は第十四聯隊の所有する中隊だけではなく壊滅した第三軍砲兵隊残余から無理やり融通させたものを含めれば北領で陣地戦を行った時と同等以上の火力を有している。敵は五千、素直に展開していればそれだけで敵は一時的に攻撃を取りやめただろう――だがそれはさせない、その為の偽装だ。ここで敵を誘引し、可能な限り損耗させる、それが馬堂豊久司令の構想だった。

「平射砲を潰せ!奴らを潰せばこちらの火力だけで押し切れる!」
相手の砲撃さえ潰せば敵騎兵隊から身を守るための方陣を崩すには戦列歩兵の斉射しかない、だがそれを成功させるには砲兵戦を強いられるのだ。必然的に消耗戦へ引きずり込まれてしまう

 不意を打たれた〈帝国〉砲兵隊は砲弾を放つ間もなくその身を危険な霰弾に晒すこととなってしまった。事前の標定射撃がないため精度は低いが霰弾が撒き散らす鉄礫と恐怖はそれでもなお峻烈だ。
 まきちらされる散弾が掠れば兵は異国の土に滋養を撒き散らす。そして迫りくる白衣の猟兵に向けて平射砲と軽臼砲が火を噴いた。

「火力の優越だけで優位をとれています、砲兵将校の理想を形にしたようなものでしょうか」
 大辺はそう言いながらも油断なく両翼の猟兵を観察する。
「正面を突破される前に側面を押し上げねばなりませんね、予備隊の投入を」

 豊久も頷く、ここからが本番である。
「・・・・油断するな、西州第一〇四大隊に伝達、中隊横列を急がせろ、右翼より側面をついて敵の士気を挫け!・・・・騎兵中隊長いるか!!」

「御前に」
機敏に駒城家生え抜きの騎兵将校が進み出る。
「西州の連中についてくれ、あの連中を追い払う最後の一撃を任せる」
 僅かながら高揚していることを伺わせる馬堂中佐に対し、騎兵中隊長は怜悧な口調で答えた。
「いささか数が足りませぬが」
 戯れ歌に出てくるような猪突猛進の突撃屋ではない、冷静に一撃を叩きこむ戦術眼の持ち主であればこそ篩に残ったのである。
「本格的な追撃をしろとまではいわん、銃兵の側面射撃で敵が崩れたら脅しつけてくれればいい。
貴様らの本分は偵察だ、あたら兵を散らさないでいい」
 部下との対話で興奮から冷めたのだろう、馬堂中佐は冷徹な視線で戦場を眺める。正面突破の為に敵は戦力を集中させている、側面の守りも盤石だが主攻正面にさらに戦力を割くか後退するか、敵指揮官が判断を迫られるのはそう遠くないだろう――後方の主力を率いる指揮官の到着で勝利を疑わないのならば戦場を放棄することはあるまいが。
戦場の黄金律は彼と幕僚達が読み解いた通りの過程を突き進む、幸運の女神は彼の下で嬌声をあげている――今のところは




同日 午後第六刻 龍岡市より西方約四十五里

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