第十五夜「思想家」
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汝に余の兄、マルコ・グラーフ・ヴァン・ハンセンを罪人に落とすことは出来まい。よくぞ長年に渡り、余とローマを欺いてくれた。汝に荷担した貴族どもも調べが着いておる。もうこのような喜劇には幕をおろさねばのぅ。」
真っ青になったパヴァーム卿は小さくなって震えているが、最後に王は強い口調で問いただした。
「ハインリッヒをどのようにしたのだ?その亡骸は何処へ葬ったのだ?」
もう震え過ぎて口もろくに開くことの出来ぬパヴァーム卿は、ボソボソと呟いてはみたが、全く声にならない。
「はっきり申さぬかっ!」
王は立ち上がり、今にも切り付けてくる勢いであったため、恐怖のあまり後ろに仰け反りながら言った。
「首を切り落とし、火で焼いて灰にし、共同墓地に投げ捨てました!」
やっとのことで言葉を紡いだ。
これを聞いて王は、玉座に腰を落として言い放った。
「されば、汝もそのようにしてやろうぞ。」
そして、王は許し乞うパヴァーム卿を一瞥し、家臣に牢に入れるよう命じたのだった。
王はパヴァーム卿が連れて行かれたのを確認すると、グランツ公を見た。
「我らはハインリッヒの遺志を継ぎ、子孫により良き国を残さねばならぬ。権力のある者は、その力で民を守り導かねばならぬのだ。クリストフよ、どれだけの時がかかるかは解らぬが、遣ってくれるな?」
そう言う王に頭を垂れて、クリストフは答えた。
「答えは決まっております。どのような艱難も厭いますまい。」
† † †
“ハインリッヒ革命”と謳われた一連の改革から十六年の後、時の王ルートヴィヒ二世は、ハインリッヒの思想に基づいた新たな法を制定し、翌年には王制及び貴族階級の撤廃を宣言した。そしてこの改革によって、教会もその力を失い、本来の敬虔さを取り戻したのであった。
現在、街の中心に建てられたハインリッヒ図書館前には、彼の像が立っている。熱弁を奮う彼を表したもので、右手には紙とペンを、左手には金貨の入った袋を持っている。
これは生前のハインリッヒの性格を表現したもので、常に考え、貧しい者には何の躊躇いもなく手を差し伸べていた彼を忍ばせる。
思想家ハインリッヒ=フォン・グランツの生涯は、たった二十四年であった。だが、その短い生涯で築かれた彼の思想は今尚、天空の太陽の如く我らを見据え、守護し続けているのである。
end...
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