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幻影想夜
第十五夜「思想家」
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思想家よ。余さえ気付かぬ事象をよう見ておったのだのう。余はこの日記を読み、国を改革することを決意させられた。なるほど、現状では先は無いな。気付いてはおったのだ。汝の息子が処刑されたと知った時でさえ、余は教会や諸公の反発を恐れて動かなんだ。それは間違いであった。先日、ローマの兄に書簡を送った。ハインリッヒの日記と共にな。パヴァーム卿の悪事は、看守であったクセルが全て語った。彼はハインリッヒの熱烈な信奉者でな、この日記が出版された日に命懸けで訴えを申し出てきたのだ。ハインリッヒは無罪であったのだとな。余が直接話しを聞いたのだが、パヴァーム卿の悪事には開いた口が塞がらぬ。全く呆れることよ。」
 玉座に座る若き王は、大きな溜め息を吐いてグランツ公を見た。
 だが、グランツ公はいまひとつ現状を理解出来ずにいた。そのため、王に尋ねた。
「王よ、私をどのようになさりたいと申されますか?」
 そんなグランツ公に、王は微笑して告げた。
「グランツ公クリストフ・マグヌム・フォン・グランツ、汝を今より国務大臣に任ずる。」
 あまりにも突拍子もない王の発言に、クリストフは「ハッ?」と言って首を傾げた。
 そもそも、この国に大臣という役職は存在しない。各貴族がそれぞれの土地を治め、国に税を支払うシステムで、それらの貴族を監視し束ねているのは元老院の役目。大臣と言う役職が登場するのは“ハインリッヒの日記”なのだ。
 この中で<国務大臣>とは王直属の職にあたり、事実上国の第二位の地位となる。
 クリストフは迷った。まさか国がこうも早く動くとは思わなかったのだ。
「余はな、新たな体制が整い次第、王制を廃止しようと考えておる。」
 これを聞いてクリストフは、目を丸くして王を見上げ何か言おうとしたが、王はこれを遮って話しを続けた。
「まぁ聞け。我らは今まで貴族制度の上に胡坐をかいてきた。貴族は己が特権を振り翳し、自らの利益を貪って来たのだ。余もそんな愚か者の一人だ。“国は民のもの”…まさにその通り。民が安定した暮らしが出来ぬのならば、一体何のために国があるのだろうか?そのような中で、我らは何をしておるのだろうかと考えたのだ。余の信頼する十二人の貴族を召集し、話し合ってこのように決めた。グランツ公よ、汝はこの国を息子ハインリッヒの思想に基づき改革せよ。息子の理想を具現化するのだ、クリストフよ!」
 この言葉にクリストフは、ただ頭を垂れて「仰せのままに」と王の決断を受領するしかなかった。
 その後、王はパヴァーム卿を呼び、厳しく断罪した。
 パヴァーム卿はあたふたと言い訳をしたが、次の王の言葉に呆然と崩れ落ちた。
「パヴァーム卿よ、今頃は汝の屋敷にも教会にも、ローマ教皇庁の査察団が調査に入っていよう。余が法王に使える兄に書簡を送り、この日の段取りを整えておったのだ。
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