第十五夜「思想家」
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の志を残してくれた。親である私が継がずして、誰が継ぐと言うのか!―
クリストフは、語り尽きぬ使用人達を見つめ、堅い信念を抱くのであった。
† † †
「あのような書物に、誰が関心を寄せるというのだ?所詮は変人の戯言。案ずる必要もあるまい。当人はこの世におらんのだからな。世間の爪弾き者の日記なぞ、恐るるに足りぬは。」
嘲笑って独り言を呟いているのは、ハインリッヒを処刑するために四苦八苦していたパヴァーム卿プロヴァンス・フォン=ゲルナーである。
彼はハインリッヒを亡き者にするため、ローマに書簡を何通も送り、異端審問官の派遣を要請していた。それと、自分に決定権を与えてくれるよう貢ぎ物も怠らなかった。そのお陰で決定権を委任され、審問官不在でも異端審議を開けたのだ。
後は簡単だった。悪魔の言葉を発し、黒魔術を施行する古い呪われた宗教を信奉してるだのと嘘を並べ立て、余計な審議なぞ行なわずに周囲を丸め込んだのだ。
本人の言葉なぞは全く聞かれなかった。理由は“悪魔に取り憑かれている”と言うもので、隔離されて姿すら見せることはなかったのだった。
なぜここまでしてハインリッヒを処刑したかったのか?それは恐れであった。ハインリッヒの言葉が、時代そのものを変えてしまうことを恐れていたのだ。
† † †
発売初日、クリストフは驚かされた。二百部を用意し、十の店に頭を下げて置かせてもらっていたのだが、それらが全て完売したのだ。その上再注文まで来ていた。
「考えもせなんだ。残るものと覚悟していたんだが…。」
買い求めた者は教師に芸術家、律法家、弁論師、一部の市民は金を出し合って購入していた。
中でも、政治に関係している他国の貴族や、教会関係者までが注文してきたのには呆気に取られた。
今やハインリッヒの考え方は、出版された日記により広く知られるようになった。
王家にもその話しが伝わり、ある日、クリストフの元に登城せよとの命がきた。同日にはパヴァーム卿も登城の命を受けており、二人は同じ日に登城したのであった。
王は先ず、グランツ公クリストフを呼び寄せて話しをした。
「グランツ公よ、汝の息子ハインリッヒの日記を読ませてもらった。」
入室したばかりのクリストフに王がさらりと言ってきたので、クリストフは覚悟を決めた。
「王よ、お目汚しさせましたること、この爵位を返上致します故、廃本せよとの命はお下しされませぬ様ご容赦くだ…」
クリストフが跪いて許しを乞うてきたので、王は慌てて「違う違う」と彼の言葉を遮った。
「グランツ公にそのようにされては困る。そちには大臣を遣ってもらわなくてはならんのだからな。」
そう言って盛大に笑ったのだ。そして話しを続けた。
「汝の息子は偉大な
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