暁 〜小説投稿サイト〜
幻影想夜
第十五夜「思想家」
[6/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
そうだ。妻を着飾らせては夜会に出掛け、民からの寄付金を湯水のごとく使ってると聞いた。食事を運んできた看守を捕まえて聞いたのだ、間違いはないだろう。その看守とは妙に気が合って、いろいろと話しをした。特に、ある司祭が不倫をし、それがバレた時の話は興味深い。その司祭は女を魔女と呼び、異端審問にかけて有罪にしてしまったのだ。その女は火刑にされ、要は口封じされたのだと言う。正しく教会の隠蔽工作だ。神への冒涜と言っても過言ではないだろう。教会に裁判権があるのは如何したものか?私はかなり危険なことだと思っている。


 四月十一日 快晴

人が人として生きられる世界。決して夢じゃない。働くにしても、現在のように多額の税を納めさせられ、自由や夢を奪われては働くために生かされているようなもので、まるで使い捨ての道具だ。本来の貴族や教会のやることではない。この狭い世界、偉い人間なぞいない。各々の人々がその役目を果たすのみだ。時として欲も大切だが、それに溺れてはならないのだ。さぁ、罪に抗うのだ!



 日記はこの四月十一日で終わっている。翌十二日に彼が異端者として捕らえられたためである。
 ハインリッヒは、死を予期していたのだろうか?
 彼の日記は、実に百二十八頁三百七十四日分が記されていた。世論や持論、政治に教育、道徳的なことまで、生活内容とともに書かれていて、それは独自の世界観を創り上げていた。
 クリストフは読み終えた後、そっと日記を閉じて呟いた。
「弱き者を救うには、先ず弱き者を奮い立たせねばならない…。お前は愚か者ではなかった。ただ、少し先を見通し過ぎただけだ…。」

 その残された日記は出版された。クリストフが部下や貴族・教会勢力を敵に回しての強行な出版であった。内容自体、貴族や教会に対しての多くの弾劾があり、クリストフ自身さえ脅かされ兼ないものでもあった。
 だが、この国を変えられる力があると感じたのだ。その結果、自身が滅びても悔いはしない。そのため、館の使用人達には金を出して暇を与えようとしたが、猛反発してクリストフの下に残ったのだった。それは、ハインリッヒが蒔いた種の最初の芽生えだったのかも知れない。
 使用人達はハインリッヒを誇り、愛していた。いつも家族同然に接し、誰かの家に病人が出れば自ら見舞いに行き、また誕生日ともなれば盛大に祝った。悩みがあれば親身になって聞き、それが解決するまで決して見離すことはなかったのだった。
 まるで親子のような、まるで兄弟のような…それがハインリッヒだった。
「坊っちゃまは慈しみ深く、私達を愛して下さった。それは金銀で譲り渡すことの出来ぬものでございます。」
 執事のゲオルクがそう言うと、皆口々にハインリッヒとの思い出を語り始めた。

―人徳だな。私は間違っていない。ハインリッヒはそ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ