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幻影想夜
第十五夜「思想家」
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の分からぬ言い分を繰り返すだけであった。
 これに憤慨したグランツ公は王家に直訴し、ローマに内容公開するよう書状をしたためてもらったが、これさえも全く役には立たなかったのであった。
 そして、処刑されたハインリッヒの遺体さえ、父であるグランツ公の元には戻されることはなかった。

 グランツ公クリストフは悲しみのあまり、暫らく誰の前にも姿を見せなかった。
「ハインリッヒ…すまない。お前には何もしてやれなんだ。幼い頃に母を亡くし、さぞ辛かっただろうに。それなのに、私は仕事に明け暮れて、お前を使用人達に任せっぱなしだったな。今更だと笑うか?ハインリッヒ。こんな父に反発し、あんな行ないをしたのだろう。本当は、もっと多くのことを語りたかったし、お前と一緒に旅行も行きたかった。今にして思えば、偲ぶ思い出すらあまりにも少な過ぎるな…。父親としては失格だ。ハインリッヒよ…こんな無力な父を許してくれるか?」
 クリストフはハインリッヒの部屋で、哀しみに浸っていた。
 屋敷にあるハインリッヒの部屋は、驚く程質素であった。
 クリストフは息子が困らぬようにと、毎月かなりの金貨を与えていたが、この部屋には、その金で買ったであろう物は見当たらない。唯一、身形を整えるものくらいで、それでさえ公爵家に恥じぬ最低限のものでしかなかった。
 そんな質素な部屋を涙目で見渡すと、机の上に一冊の本が置かれていることに気が付いた。
 クリストフが近くに寄って見てみると、どうやらそれは日記のようであった。
 クリストフはそれを手に取り、表紙を捲った。
 そこには息子…ハインリッヒの日々の思いや行動が書かれており、彼がどんな考えを持っていたかが伺えるものであった。
「そうであったのか…!だからお前の部屋はこんなにも…。」


<ハインリッヒの日記>より

 二月十九日 快晴

今日は街外れの孤児院に行った。教会が建てたものの筈だが、雨が降れば雨漏りし、隙間風が入り寒い上に湿気がひどくてカビ臭い。なぜ最後まで面倒を見ないのか不思議だ。私はそれらを直してもらえるように、金貨を二十枚渡してきた。内装はどうにか修理出来るだろう。管理者は子供好きな女性で、子供の世話をしている者は以前孤児であった者だと聞いた。これであれば、渡した金貨も心配ないだろう。暫らくしたら見に行こうと思う。父上だって、私が贅沢するよりも喜んでくれるだろうから。


 二月二十日 曇天

以前から、教育とは母国語、外来語、数学、歴史、自然学、弁論術に芸術と道徳の調和が必要と考えている。今の教育は古びたラテン語に神学の時間を取りすぎて、まるでわざと教えない様にしているように見える。こんな教育などでは後がない。貴族や教会だけが肥えても意味がないのだ。父上のように“国は民のもの”と言う考え方をしなく
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