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幻影想夜
第十五夜「思想家」
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たちなんかよりも余程賢い。俺には、わざと馬鹿を装ってるようにしか見えねぇ。だがよ、嘲笑ってる者の中にゃ、理解してるヤツも必ずいる。そいつらが台頭してくりゃ、この国は変革を迎える時期だってことだ。ま、お前に言っても意味はねぇがな。」
 そう言うや部下を鼻で笑い、仕事に戻れと手を振って追いやった。
 だが、そんなセバスティアンではあるが、気掛かりが一つあった。それは教会の異端審問だ。
 もしローマから派遣でもされれば、十中八九ハインリッヒは捕えられるだろう。この市の教会はハインリッヒを嫌っている。いや、彼の“言葉"を…と言った方がいいかも知れない。
「なるようにしかならないか…。」
 セバスティアンは、青空の下で演説を続けるハインリッヒの声を聞きながら、そっと溜め息を零した。

 それから一週間が過ぎた。
 何事もなくハインリッヒは、また日課の演説を開始した。近くの本屋では、「また夢想家のお出ましだ!うるせぇったらありゃしねぇっ!」と、ブツブツ言いながら掃除をしている。
 その斜め隣の肉屋では、「変人めっ!全く商売の邪魔だっ!公爵の息子でなけりゃ、絞め殺してやりてぇや!」などと言いながら、肉の目方を計っていた。
 そんなことなぞどこ吹く風のハインリッヒは、今日も今日とて絶好調である。
「富める者と貧しき者が、不平等なんてことは有り得ない!人間は全て平等なはずだ!富める者はその知識と財力で貧しき者を庇護し、貧しき者はその庇護の下、安心して働けるようにならなくてはならない!今の時代は狂っている!何故に貧しき者が虐げられなくてはならないのか?貴族も庶民も、皆人間だ!同じだけの幸福を受けられて然るべきなのだ!互いに助け合い、交流があってこそ、国の発展に繋がって行くのだっ!」
 そこまで言い切ったところで、ハインリッヒは口を閉ざした。物々しい一団が、市民を掻き分けて近づいてきたからだ。
 それは鎧で武装した兵であり、胸に十字の印が刻んであった。それがハインリッヒの目の前に遣ってくるや否や、いきなり取り押さえられ、こう告げられたのだ。
「ハインリッヒ=フォン・グランツ。汝を異端者とみなし、パヴァーム卿プロバンス=フォン・ゲルナー様の命により捕縛する。」
 淡々と告げられたハインリッヒは、何の抵抗もせずに連行されていった。

 街の者達がハインリッヒを見たのは、この日が最期であった。
 何故ならば、彼の言葉に恐れを抱いた教会は、公平な裁判をすることなく、ハインリッヒを異端者として処刑してしまったのだ。
 これは公開されることもなく、グランツ公にさえ封書で知らせただけであった。
 グランツ公はその所業に大いに怒り、教会裁判の内容を公開するよう責め立てたが、教会は「これはローマの許しを得て行なった正当な裁判の結果だ!公正なる正義だ!」と、訳
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