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幻影想夜
第十五夜「思想家」
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育が必要不可欠なのだ!今の教育は守護すべき民を家畜のようにすべく、不要なものだけを大量に教え込み、真実から遠ざけるよう仕向けられているに過ぎない!」
 これを聞いた教会の司祭は顔を真っ赤にして怒
って言った。
「今外で馬鹿なことを叫んでいる愚か者を、直ぐに捕えて地下牢に入れろ!」
 そう命じられた見習い司祭は、ハインリッヒを仕方無く捕えて牢に入れたのであった。

 翌日、事態を知った父クリストフが教会に書状を送ってきたので、ハインリッヒは無事釈放された。だが、彼宛てにも手紙が届いており、そこにはこのように書いてあった。

―この次は無いと思え。再び捕えられることがあるようならば、私はお前を見捨てるだろう。いつまで風を追うつもりなのだ?早く現実に立ち返るのだ。繰り返すが、次は無いと肝に命じろ。―

 それは乱筆に書かれ、かなり憤慨していることが伺える手紙であった。
 だが、こんなことで日課を止めるハインリッヒではなかった。
 釈放された直後、当たり前だというように日課を開始。今度は市庁舎前にて「政治とは何か?」を延々と語り始めた。
 通り過ぎる人々は、まるで道化でも見るかのように薄笑いを浮かべ、さらには銅貨を投げ付けて嘲笑うものまでいた。そして、その銅貨を拾おうとする子供に押し退かされもした。
 誰一人、彼の言葉なぞ聞いてはいなかったのだった。

「貴族とは、民を守護する者でなくてはならない!権力を我が物顔で振りかざしている者は、まるで玩具の剣を振り回している子供のようなものであり、危なっかしい上に何の益も齎さない!賢い者達は気付くべきだ!知識ある者は弱者のためにその知識を使い、権力ある者はその力で民を守り、富豪と成った者はその資産で貧しき者を救わぬならば、それらに何の価値があるのか?!我々は今こそ変わらなくてはならない!人が人であるために!」
 市庁舎の人々は顰めっ面をしている。何せグランツ公の息子だ。嫌でも文句は付けられない。
 だがその中で、商人の一人で取税官であるセバスティアン・ゴルツは、彼を高く評価していた。
「彼の言葉は、今は夢想と蔑まされてはいるが、やがて現実化するだろうよ。」
 そう言って、部下達を困惑させていた。そんなセバスティアンに、部下の一人が抗議した。
「ゴルツ様、お言葉ではございますが、とてもそのようには思えません。彼の言っている事は、この国の法から逸脱しておりますし、あまりにも突飛な考えゆえ、民を困惑させているようにしか思えません。」
 と、このように反発したので、セバスティアンはこう返したのだった。
「いいから見てろ。ハインリッヒは種を蒔いているのだ。そこから芽が出て実までには時間がかかる。その恩恵を受けられるのは、もう少し後の世代になるだろうがな。時代は変わってくもんなんだよ。彼は俺
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