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菖蒲
3部分:第三章
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第三章

「公子様ですか」
「如何にも」
 光は専緒の言葉を受けて頭を垂れてきた。彼はそんな光の腰の低い様子を見てその顔をさらに警戒させるものにした。
「私がその光です。どうぞ宜しく」
「公子様がどうしてこちらに」
「何、大したことはありません」
 光はにこやかな顔を作って専緒に答えた。
「貴方の様な立派な方と知り合いになりたいと思いまして」
「まさか」 
 専緒はその言葉を否定した。
「私のような者と。まさか」
「ですがそのまさかなのです」
 光はにこりとした笑みを作ったまままた述べた。
「人はその力を隠せぬものです」
「力を」
「はい。ですから」
 また専緒に対して言うのだった。
「どうか。お近づきになって頂けませんか」
「ささやかなものですが」
 伍子胥がここで宝を出してきた。
「どうぞ」
「それは一体」
「何、贈りものです」
 光がにこやかに専緒に述べる。やはりそのにこやかさも作っていた。
「私からの。どうぞお受け下さい」
「私のような貧しい者にですか」
「人は貧しさが問題ではありませんぞ」
 この言葉は伍子胥からの受け売りであるがあえて使った。
「ですから。どうぞ」
「遠慮なさらずに」
「折角の申し出ですが」
 伍子胥からも薦められたがあえて断るのだった。
「お受けするわけにはいきません」
「またどうして」
「私には過ぎたものだからです」
 贈り物を断るにはこれ以上はない言葉であった。
「ですから」
「受け取れないと」
「はい」
 専緒の言葉は強く堅いものであった。何者をも拒むかのように。
「ですから。申し訳ありませんがここは」
「そこを何とか」
 それでも光は渡そうとする。しかし専緒はそれを拒むばかりだ。話は堂々巡りになろうとしていた。そうして話が膠着していたのを見て伍子胥が主に言うのだった。
「公子、ここは」
「しかしだ」
「いえ、帰りましょう」
 彼もまた強い声で言う。有無を言わさぬ強さがそこにはあった。
「宜しいですね」
「ううむ。その方が言うのならば」
 光にとって伍子胥は無二の腹心だ。その彼の強い言葉を無下にできる筈もなかった。彼はこの場は仕方なく退くことにしたのであった。
「専緒殿、お邪魔致した」
「いえ」
 挨拶は礼に沿って行われた。光は馬車に乗る時に見た。専緒が小さい子供達に囲まれてみると。見ればかなりの子沢山であった。
「子供が多いな」
「そうですな」
 伍子胥も馬車に乗っていた。そこで主に答える。
「それもかなり」
「やはり子供が多いのはいいな」
 これは光個人の好みだけでなく国力にも影響することだった。やはり人口が多いとそれだけ生産力も兵力も上がる。そういうことなのだ。
「そうした意味で彼は幸福だ」

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