第十四夜「前を歩く者」
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ねばならない仕事」のように感じていたのだ。
「よいしょ!」
二人で掛け声をかけ、重い側溝の蓋を持ち上げた。今は大した水量は無かった。春の田植え時期には、近くにある川から水を引いてくるのだが、今は水門を閉じてあるのだ。
「何も…無いのぅ…。」
金子さんはそう言うと、少し落胆した風だった。
事件からもう十数年…時が経ち過ぎているのだ。そう簡単に何か見つかっては…そんな風に思いながら僕も中を除き込むと、浅い流れの中、底へ何か赤っぽいものが見えたように感じた。
僕はそれが気になり、側溝の中へと降りて見ることにしたのだった。
「君、何をしようというのだね?そんな格好で入っちゃ、下手をすれば…。」
「大丈夫です。金子さん、あれ…見えますか?」
僕がそう言って指差すと、金子さんはよくよく水底へと視線を走らせた。
「ありゃ…子供の玩具か何かだろう?」
「いや、そうかも知れませんがね。僕は少し気になって。」
僕はそこで会話を区切って、側溝の中へと飛び下りた。
「森山さん!大丈夫か!?」
いきなり飛び下りた僕に驚き、金子さんは中の僕へと問った。正直、冷たい水に凍えそうだったが、金子さんには「平気ですよ。」と声を掛けておいた。そして気になったものを引き上げようと、僕は思い切って水の中へと手を入れた。
「赤い…スニーカー?」
冷たい水の中から出てきたものは、もうぼろぼろになったスニーカーだった。
赤とは言っても、もう長い間水の中にあったせいかかなり変色している。赤だと分かったのは奇跡としか思えなかった。それも左右揃って見つかるなんて…。
「そりゃ…直美の靴だ!直美が履いていた靴だよ!」
僕の拾い上げたスニーカーを見て、上にいる金子さんが言った。
その言葉に、僕は昨日の恐怖感に再び襲われた。金子さんの言葉が真実なら…これは遺品だ…。あり得ないだろ…十数年の時を経て、今更この場所から出てくるなんて…。
「上がりますから、これを受け取って下さい。」
「ああ…気を付けて下さいよ。」
金子さんがスニーカーを受け取り、それを持って僕の視界から消えた時、後ろから声が聞こえたような気がした。
僕はギョッとして振り返ったが、昨日同様に誰の姿も無かった。
―何だ…脅かすなよ…―
僕は心の中で呟きながら前へと振り返ると…。
「…!ウギャァァァ!!」
僕は大きな叫び声を上げた。それは上にいる金子さんをも驚かせた。
「どうしたんだね!?」
しかし、金子さんが中を覗いた時には…もう側溝の中に僕の姿は無かったのだった。
「森山さん…森山さん!!」
金子さんは、もう居なくなってしまった僕のことを呼んでいた…。
僕が側溝の中で見たのは女性だった…。いや…恐らく女性だったのだろう…。
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