第十四夜「前を歩く者」
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性へと走って迫り、その女性の背へと包丁を突き立てたそうだ。あまりのことに声も出せず、女性はそのまま地面へと倒れ込んだ。
そして、男は女性の財布を盗ると、直ぐ様その場から逃げ去った。と言うのが知られている事件の真相なのだが、実は少し違うと言うのだ。
背中を刺されたところまでは真実だが、そこから先が違うのだ。
実は刺された女性にはまだ息があり、故に男は女性を近くにあった側溝へと投げ落としたため、直接の死因は溺死であったのだという。
「その後、あの側溝の蓋は付け替えられたんだけど…。他に不思議なことがあったんですって。」
「まだ不思議が続くのか…。」
「そう言わないで。それでね、遺体を引き上げた時、履いている筈の靴が見当たらなかったそうなの。流されたのではと広い範囲を捜索したんだけど、結局見つからなかったそうよ。ついでに犯人も未だ不明だそうですし、あなたのさっきの話を聞くと、どうもこの話を思い出しちゃって…。」
背筋がゾッとした。
僕はその女性の顔を知らないが…あの靴跡が話の女性のものだとしたら、一体何が言いたいのだろうか?
事件はもう風化して久しいものだ。それが今になって、なぜよりによって僕の前へ…?
全く…分からないことだらけだ。
「そうだわ。お隣の金子さなら詳しいと思うわ。確かご亭主が以前、新聞記者だったて言ってたから。」
「別にそこまでしなくていい。」
「ちっともよくありません!絶対何かあるに決まってますもの。」
はぁ…、妻はこの手の話が好きだからなぁ…。全く困ってしまう…。
「楓…何を根拠に言ってるんだ?」
「勿論、女の勘ですわ!」
もう返す言葉もない…。このお陰か、先程まで感じていた恐怖感は消え去っていたのだった。
翌日のことだ。この日は土曜のため、僕はのんびりと眠っていたのだが、そこへ妻がドタバタと入ってきた。
「あなた!ちょっと起きて下さいよ!」
「…ん…何なんだ…?」
「お隣から聞いてきたんですってば!」
「…ん!…お前、あんなこと聞いたのか!?」
妻の言葉に、僕はギョッとして飛び起きてしまった。これでは僕が、まるで可笑しな人間に見られてしまうではないか!
そう思った時、妻は僕に何も言わせまいと口を開いた。
「昨日の話なんてしてませんよ。事件についてだけ聞いてきたんです。」
「それだって充分変だろうが…。もうとっくに風化した事件だぞ?」
「それはそうだけど…。って、そうじゃないんです!今日が事件の起きた日なんですって!私に聞かれて直ぐに思い出したそうよ?」
「はぁ?それじゃ、今日が女性の命日ってことか…?」
何だか…頭が重い…。何だろう…この嫌な感情は…?
しかし、僕はそれよりも、あることをしなくてはならないと思った。なぜそう思ったのかは分からない。ただ…
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