第十四夜「前を歩く者」
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ぁ…。」
側溝の蓋は開かれた形跡はなく、閉ざされたままとなっている。
「この重い蓋を…」
重い蓋…?僕はなぜそんな風に思ったんだろう?まぁいい。兎に角、そこには降り積もった雪がそのまま残っていたのだから…。
空を傘の中から仰ぎ見ると、厚い雲から雪が休むことなく降り続き、一向に止む気配は無かった。そして再び下を見ると、それは僕の顔を再び蒼冷めさせることになった。
「…勘弁してくれよ…!」
震えるように呟くと、僕は家までの道程を全力で走ったのだった。
そこにはもう…あの足跡は一つも残されていなかったのだから…。
僕が家に着くと、妻の楓が僕を見て目を丸くした。
「あなた?そんなに息を切らして…どうしたんです?」
不思議がるのも無理はない。いつもは声を掛けて入ってくる僕が、家に飛び込んで入るなり扉に鍵を掛けて座り込んでいたのだからな…。
「いや…今な…」
息が上がったままの僕は、上手く話すことが出来ずにいた。それを見かねた妻は、直ぐに水を運んできて僕へ渡してくれた。
僕はそれを一気に飲み干すと、先程体験した不可思議な出来事を妻へと語ったのだった。
妻は静かに聞いていたが、全てを聞き終えるやこう言った。
「分かりましたから、さっさと上がって下さいな。夕食の用意も整ってますから、早く着替えてきてくださいね。」
「おい…どうとも思わないのか?」
「そういう訳ではないですけど、こんな冷える場所でなくとも良いでしょ?」
それもそうだ。ここは未だ玄関先で、ゆっくり話を出来る場所ではないのだ。誠に不本意ではあったが、僕は妻の言葉に従うことにした。
部屋着に着替えて台所へと行くと、妻は直ぐに温かい御飯を僕の席へと置いてくれた。横には湯気のたった味噌汁もあった。
「いただきます。」
僕はそう言うと、用意された食事へと箸をつけた。 すると、妻はふと先程の話の続きを始めたのだった。
「ねぇ、あなた。さっきの話なんですけど、少し気になることがあるのよね…。」
「気になること…?」
妻は食事をしながら、何とはなしに話している。
だが、僕は食事に集中することも出来ず、一先ずは妻の話を聞くことにした。
「で、何なんだ話ってのは。」
「あなた覚えてます?十数年も前になるかしら…駅からの道で強盗殺人があった話…。」
「僕は直接には分からないが、友人から聞いたことはあるな…。確か、十代の女性が被害にあったと…。」
「それです。でも、ニュースで明かされなかったこともあるんですって。」
「ニュースで明かされなかった…?」
妻の話はこうだった。その年の冬、丁度今頃の話なのだが、会社帰りのOLが駅からの道を歩いていると、後ろから一人の男が近づいてきた。
女性はそれに気付き歩調を早めたが、それを知った男はその女
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