適能者-シュウ-
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へと向かう。
(…狭い)
町の通りを見てシュウは、トリスタニアを初めて訪れた際のサイトと同じコメントを心の中で呟いた。通りは人がちゃんと歩けるくらいの余裕こそあるが、車社会出身のシュウからすればその程度の広さは広いうちに入らなかった。とにかく水をもらいに向かう。使っている文字が違うのに言語が通じるのは幸いだった。街の人に聞き込みながら、シュウはその果てに樽のコップ一杯の水をもらった。
「ほら、水だ」
水をもらったエマは水を飲み、ある程度の気力を取り戻した。
「…あの、ありがとう」
「いい。それよりここは人ごみが多い」
さも同然のように言うシュウは再びエマと共に、街に出かけていった。
「何を頼まれたか読んでくれ」
さっきも言ったがこの時期のシュウはまだ文字が完璧に読めていない。買ってきてほしい注文の品はメモに書いてもらったがシュウにはなんと読むのかわからない。
「えっと…まずはパン、です」
「パンか。わかった」
エマがメモを見てそれを読み上げると、シュウは周囲を見渡してパン屋に該当する店をまずは目視で探してみる。店は文字の読めない平民を気遣ってか、看板の形ですぐにわかった。その後、二人は買い物を淡々と続けた。買い物自体は順調に進んでいた。…というか、シュウのほうが淡々としていた。特に幼い子供を放すようなことがなかったこともあるが、それでも話を持ち出したほうが互いの中も深まりやすいことだが、あいにく彼はそれが大の苦手だった。
(うぅ…やっぱりこの人、なんか苦手…)
やむを得ず彼の服のすそを掴む形でついていっているが、エマは黙ったままのシュウを見ていると、どうしても苦手意識が表に出てしまった。
ともあれ、メモに記された食料品などの買い物はあと少し。後は残りの物を買って村に戻るだけである。
ふと、シュウは立ち止まった。エマは行き成り立ち止まったシュウに戸惑いを見せる。
「?」
「……」
立ち止まっている。何かを見ているのだろうか。エマは彼の視線の先を目で追っていくと、それは意外なものだった。
そこは街の花屋だった。あまりに意外でエマは思わずびっくりして目を見開いていた。もしかしてこの人、花が好きなのかな?と。シュウは、店の外の花瓶に置かれていた、中心が黄色く細長い紫色の花弁の花を見ていた。
「えっと…その…欲しいの?」
「…いや、なんでもない」
シュウは首を横に振って誤魔化した。
――――私ね、この花が好きなんだ
彼の脳裏に、ある少女の声が聞こえた。今の彼にとっては遠い昔のようで、けど鮮明に残っている、忘れることのできない声だった。
「時間をとらせてすまない。買い物を済ませて早く帰ろう」
この日はマチルダもいないため、村に護衛らしい護衛もいない。シュウは視線を街のほうに戻し、残ったリクエストの食料を買おう
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