第十三夜「花火」
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いるようだった。
「なぜなんだ!なんでこんなことにっ!」
僕は、咲い続ける夜空の花に叫んだ。
―でも、やっぱりまんまるでしょ?―
胸の奥に、美雪の声が浮かんでくる。
刻一刻と冷えてゆく美雪の躰。その開かれたままの瞳は、ずっと好きな花火を見続けているようだった。
「美雪…僕も好きだよ…。」
今は二人だけで花火を見ようか。僕、少し花火が歪んで見えちゃうよ…なんでかな…?
救急が着たとき、その光景は不思議な程に凛として、近付きがたかったという…。
血の海の中、まるで恋人同士が寄り添うように花火を見ていた二人を、ただ見つめるしか出来なかったと、後に救急隊員は語ったと言う…。
* * *
そうだなぁ…あれからもう六十年も経ってしまうが、今でも手に取るように憶えている。僕の手のなかで消え逝く温もり…流れ続ける血が、やけに熱く感じたんだ…。
あの事件は、やはり盗まれた銃で行なわれたものだった。犯人は数発発砲してから逃走していたらしく、拳銃に残っていたのは一発だけだったのだ。それなのに…。
彼女が旅立った七日後、犯人は捕らえられた。だが、精神異常と言うことで無罪という判決であった。
そして…そいつは精神病院に入れさせられ、そこから出ることは終ぞなかった。病室で首を吊って自殺したのだ。
当時はかなり世間を騒がせたニュースで、僕や他のみんなのところにも取材が殺到したが、皆口を鉗んで語ろうとはしなかった。
今となっては、もはや過去の事件で、憶えてる人も少ないだろう。
あれ以来、人が変わったように暗くなってしまった順平は、彼女の死から六年後、アルコール中毒により亡くなってしまった。友仁は弥生と結婚し、今でも健在ではあるが、美雪のことは一言も口にすることはない。
残る明美だが、事件から四年後に僕と結婚し、今も一緒だ。僕の心を知っていて、それでも僕と生きたいと言ってくれたのだ。美雪も許してくれるだろう。
さて、そろそろ時間だな…。
「片桐さん?片桐さんっ!?だれか先生呼んで!片桐さんの容体が急変したわっ!」
ものの数分も経たぬうちに医師が来たが、もはや手遅れだった。
傍らに付き添っていた明美は、全てを察したように言った。
「お先に行くんですね?解りました。私は後からゆっくり行きますから、皆様にはそうお伝えくださいね…。」
そして…僕の手を強く握りしめたのだった。
* * *
「迎えにきたよ。」
随分と久しい声が聞こえてきた。
「美雪…わざわざ来てくれたのか。僕はこんなにも歳をとってしまったよ。」
彼女はあの時のままだった。あの美しい姿のまま…。
「大丈夫よ?淳もあの頃のままだから…。」
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