第二百十六話 慶次と闇その四
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「上様に申し上げておる」
「松永殿のお命をですか」
「腹を切らせるべきとな」
「それは権六殿達と同じですな」
「無論じゃ、言わぬのは猿と御主位じゃ」
信長に松永を討てと言わないのはというのだ。
「あの者は危険じゃ、だからな」
「切るべきと」
「そうすべきと申し上げておるが」
これが、というのだ。
「上様はこのことははぐらかされてな」
「そして、ですな」
「お聞きにならぬ」
「そのままここまで来ましたな」
「御主も何故あ奴を好く」
平手は慶次に怪訝な顔で問うた。
「あの様な者を」
「いや、悪い方とは思いませぬ故」
「それは違うであろう」
平手だけでなく可児も信長に言った。
「幾ら何でもな」
「全くじゃ」
可児もここでは平手と同じ意見だった、それで彼も言うのだった。
「あの御仁は危うい」
「そうじゃ、これまでにしたことを考えよ」
「まさに蠍」
「蠍は何をするかわからぬぞ」
「主家の三好を枯死させ公方様を弑逆し奈良の大仏を焼いた」
「それだけのことをしたのじゃぞ」
「それがしも知っております」
松永のその過去はとだ、慶次も言う。
「しかと、しかし」
「悪いものは感じぬと」
「そう言うのじゃな」
「はい、今も」
まさにその通りだというのだ。
「それがしは、あの御仁には闇を感じますが」
「闇とな」
「しかしその闇から出ようとしている」
「そうしたものを感じるというのか」
「左様です」
「それでか」
「それがしは松永殿とも茶を共にしましたが」
茶席でだ、その時もというのだ。
「よき茶でした」
「茶で人がわかるか」
「そうとも思いまするが」
「確かに茶で人はわかる」
平手にしても茶に対する造詣は深い、尾張きっての数奇者としても知られ今も織田家きっての茶の者でもある、信長も茶好きは彼の影響が強い。
それでだ、平手もこう言うのだ。
「それはその通りじゃ」
「左様ですな」
「しかしじゃ、あ奴はじゃ」
「蠍だと」
「蠍の毒は何時か刺す」
その相手をというのだ。
「そして殺すからな」
「織田家を」
「何時上様、天下を害するかわからぬ」
「それで、ですな」
「わしも上様に申し上げておるのじゃ」
腹を切らせる、その様にだ。
「しかし御主はそう言うか」
「思った通りのことを」
慶次自身がというのだ。
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