暁 〜小説投稿サイト〜
女傑
4部分:第四章
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
だった頃だ。ローマにいた時だ」
 彼はその時にカテリーナを見ていたのである。まだ枢機卿であった父の側にいて彼女を見ていたのである。
「麗しい姿だった。もっともあの時はまだ唯の花だった」
「唯の、ですか」
「そうだ。唯のな」
 それをまた言った。
「そう思っていた。だがそれは違っていた」
 そして次にこう述べた。
「美しい花には棘がある」
 古来より言われている言葉を彼も口にした。
「それが彼女なのだ。それを知ってからだったな」
 チェーザレの言葉が楽しむものになっていた。
「彼女のことを心に留めたのは。そして今」
 彼は今遥かなカテリーナの居城を見ていた。
「彼女の御前に。よいな」
「はい」
「そして」
「イタリアをも」
 次に彼は巨大な長靴を見た。イタリアの大地を。
「手に入れるぞ。よいな」
「はっ」
 家臣達は一斉にそれに応える。チェーザレがイモーラに達したのは翌日のことであった。
 市民達は何の抵抗もしなかった。それどころかチェーザレの大軍を笑顔で迎える有様であった。
 それを聞いたカテリーナは我が耳を疑った。まさかこうもあっさりと彼等がチェーザレに鞍替えするとは思っていなかったからだ。
「それはまことですか」
「残念ながら」
 カテリーナの家臣達は苦渋に満ちた声で報告していた。カテリーナはそれでもまだその言葉が信じられなかった。
「その様なことが」
「全てはヴァレンティーノ公爵の思惑通りでした」
「あの公爵の」
 カテリーナの脳裏にあの陰のある端整な横顔が浮かんだ。彼女もチェーザレの顔は知っていた。
「そうです。公爵は彼等にあることを告げまして」
「それによってイモーラが鞍替えしたというのですか」
「はい」
 家臣達は項垂れて述べた。
「今まで通りの権利も地位も保障すると。そしてその身の安全も財産も」
「それだけでですか」
「そこに公爵の統治が利いたようであります」
「公爵の!?」
 これはカテリーナには考えの及ぶものではなかった。彼女はあくまで武器を持つ者でありペンを持つ者ではなかったからだ。しかしチェーザレはその両方を備えていた。今その差が大きく出たのだ。
「左様です。公爵の統治の評判は知れ渡っておりまして」
「それを聞いたイモーラの者達は皆」
「馬鹿な」
 カテリーナはそれを聞いてもまだ信じられなかった。
「だからといって」
「ですがイモーラが公爵の手に落ちたのは事実」
「そして公爵は今その街に足掛かりを置きました。次には間違いなくフォルリに来るでしょう」
「フォルリに」
 カテリーナはそれを聞いて部屋の窓から城塞の隣にある街を見た。今までは何も思うところなく見ていた街が急に暗雲立ち込めるものに見えてきた。
 しかしそれに恐怖を感じるカテリーナでは
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ