暁 〜小説投稿サイト〜
女傑
3部分:第三章
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第三章

 事件は意外にも迷宮入りになるかと思われた。だがさらに意外な方向に進むこととなった。
 教皇が突如として事件の捜査を打ち切るように言ったのだ。事件の捜査開始から僅か三週間後のことである。
 これを不思議に思わない者はいなかった、何故捜査は迷宮入りしたか。教皇は捜査を打ち切るように言ったのか。実に奇怪な話であった。
「何だったんだ、あの事件は」
「何かおかしいぞ」 
 誰もがそう言った。そしてそれを機会とするかのようにチェーザレが世俗に戻った。そして今に至るのである。
 事件は何かそのまま下火になっていた。だが人々はその中で考えるのであった。
「あの事件な」
「どうした?」
 囁きに問う声がした。
「おかしいと思わないか」
「犯人がわからなかったことか」
「それと教皇様の動きだよ」
 声は言う。
「何で捜査を打ち切ったんだ?」
「それか」
「若しかしてな」
 誰かが囁く。
「教皇様は犯人を知っているんじゃないのか」
「?どういうことだよ」
 誰もがその囁きに耳をそばだてた。
「犯人を知って、事件の真相も知ったから捜査を打ち切ったんじゃないのか」
「何でだ!?」
 皆それを聞いて考え込んだ。
「何でそう思うんだ?」
「だってな」
 声は言う。
「あの教皇様だぜ」
 まずはこの前提があった。アレクサンドル六世という教皇である。残忍で執念深い。敵に対しては何処までも残忍な男である。
「それがな」
「犯人を捜すのを止めたってことか」
「あの人なら何があっても捜し出すよな」
「まあな」
 それに頷く言葉が聞こえてきた。
「それで後は嬲り殺しだな」
「ましてや殺されたのがガンディア公だしな」
 彼が最も愛していた息子を殺されたのである。そうしないではいられないと誰もが思う。
「それを何もしない」
「やっぱり知ってるってことか」
「だから打ち切ったんだろうな」
 声は語る。
「けれどだ」
 ここで謎が浮かんできた。
「犯人は誰だ?」
「教皇様が知っているって」
「そうだよ」
「問題はそこだよ」
 声が重なってきた。
「誰が殺したのか」
「誰だ?」
「誰なんだ?」
 彼等は囁き合う。まるで闇の中での顔の見えない囁きであった。
「ガンディア公を暗殺したのは」
「誰なんだ?」
「そこだ」
 また誰かが言った。
「公爵が死んでだ」
「ああ」
「一番得をするのは誰か」
「一番得をするのか」
「そうだ」
 人々は話し合う。影の中で。
「誰かか」
「その時か?」
「いや」
 それには否定する声が浮かび出た。
「今見たらわからないか?誰が得をしているのか」
「各国の君主か?」
「それとも司祭様か?」
 人々は言い合う。この時代聖職者は即
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ