第22話
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袁紹と華琳の両名が久しぶりに顔を合わせた翌日、日も昇り始めていない時刻の広宗内部、 『張三姉妹』が使っている屋敷よりも上等な建物内で、手配書に目をやりながら男が嗤っていた。
「……くくく」
彼の名は『張角』――無論本人ではない。しかし手配書には彼と同じ風貌の男が描かれていた。
二十万の勢力とは言え黄巾は下火にある。聡い者や不安に押しつぶされた者達は官軍が来る前に黄巾を離れ、行く当てもない彼等は自然と南皮に辿り着いていた。
そんな彼等の情報により、表に現れない張角達に代わり黄巾を取り纏めている者の素性がわかった。その男は黄巾に合流したどの賊上がり達よりも多くの戦力を従えていた賊長で、持ち前の腕力と、多くの手下を使い広宗の黄巾達に指示を出していると言う。
風はこれに目をつけた。実質上黄巾の指導者となっていたその男を『張角』と見立て手配書を作成したのだ。
ただの賊上がりが一躍大罪人に、並みの人間なら卒倒しかねない状況だったが男は嗤った。
見方を変えれば、ただの賊長が今や黄巾二十万を率いる『張角』だからだ。実際張角として此処に居るのは愉悦だった。それまで自分に恐怖の視線を向けていた者達からは畏敬の念を、自分の指示に従わない少数派の者達は頭を下げ始め――捕らえた女は抱き放題だった。
広宗に篭城している黄巾達で、張三姉妹の素性を知っている者は殆どいない。
彼女等の説得で目を覚ました彼等はそれまでの熱が嘘のように冷め、広宗に辿り着く前に離脱している。そんな状況のため男が張角を自称するのは、手配書の効果も相まってすんなり成功していた。
「此処の次は南皮だ。あのふざけた袁家って奴を滅ぼしてやる」
男は何処までも驕り、昂っていた。彼に学はなかったが、戦において数の優劣がどこまで重要な事かは理解していた。
広宗を包囲している官軍は多く見積もっても十万ほど、対する自分達はその倍の数で篭城している。広宗に備蓄されていた兵糧もあり長期戦でも余裕があった。
そして此処を抜けられると前提して次の獲物――袁家を思い出しては顔を歪ませる。
奴らが居なければ今頃自分は五十万の大軍勢を率いていたはずなのだ。聞けば南皮で難民として受け入れられた言っていた。
「袁家を滅ぼして目を覚まさせてやる。この張角様がなぁ! ……くくく」
周りの官軍を蹴散らしたら景気祝いにあの旅芸人達を抱いてやる――男は歪んだ決意を胸に屋敷から外に出て行った。
「か、頭ぁぁ! 大変です!?」
「頭って呼ぶなと言ってるだろ! いつになったら覚えるんだ?」
外に出ると、すぐに部下の一人が慌てて駆け寄ってきた。
「す、すみません張角様……でもあれを見て下さい!」
「あ〜ん?」
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