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BloodTeaHOUSE
発表会
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さっきからドキドキして緊張して手の汗が止まらないよ。
髪の毛をアップにしたのは失敗だったかもと後悔したり、ドレスが派手すぎたんじゃないかとか変じゃないかと気になったり、とにかく落ち着かないのだ。

だって今日は音楽ホールの舞台でのバイオリンの発表会。

小ホールだけど、百席以上はあるし、お客さんだってそれなりに居る。
その上、先生のお弟子さんは音大生やコンクールで賞を取るような子ばっかりなんだもん。
発表会に出たことすらない私に、緊張するなっていう方が無理な話だよね!

食べ物も水も喉なんか通らないから、楽譜を見ようとするんだけど、
目が上滑りして、ちっとも音符が頭に入ってきてくれない。
だからさっきから石みたいに固まったまま、動かないでじっと自分の順番を待ってる。

もういっそのこと、泣いて逃げ出して帰っちゃおうか‥‥なんて考えてたら、
楽屋の入口がココココンとノックされ、続いて開いたドアから

「楠木香澄さんはこちらにいらっしゃいますか〜?」
なんて、自分の名前を呼ばれて思わずビクンとしてしまった。

なんだろう‥‥?まだ演奏の順番じゃないよね?
なんて思いつつドアの方を見ると、ホールの受付の人っぽい制服の女の人が
キョロキョロしている。おずおずと手を挙げながら、

「ぁの‥‥楠木香澄はわたしですけど‥‥」

何かあったのかな?先生の気が変わって出番がなくなったりしたのかな?
なんて、中途半端に手を挙げたまま、事務員風の制服女性に近づく。

「ああ、よかった。控え室にいらしてたんで、探す手間が省けました。
 付き添いの方が探してらしたんですよ」

なんて、意味のわかんないことを言われた。

ほかの子は親が付き添って、あれこれ演奏準備を手伝ってるけど、私には両親がいない。
保護者って、名前のとおり自分を保護してくれる人なんだなって、
みんなを見てて、実感してたとこなんだもん。私に付き添ってくれる人なんて‥‥

戸惑っていると、事務員さんの後ろからひょっこりと
綺麗で大きな、かすみ草と薔薇とガーベラの白とピンクの花束が顔を出した。

そして、その後ろから飛白の顔がヒョイっと現れた。
お店の白と紺の制服じゃなくて、私服姿で私を見てにこっと笑う。

「お世話をおかけしました」とか「いえいえどういたしまして」なんて
受付お姉さんさんと飛白はにこやかに挨拶してる。

「驚いたかい?」

なんて少し照れくさそうに、いたずらが成功した時の子供みたいな顔で言うんだもん。

「お、驚いた、に、決まっ、てる、で、しょ‥‥‥」

声とともに張り詰めてた緊張の糸まで切れちゃって、せっかくガンバって
お化粧したっていうのに、目から大粒の涙がポロポロあふれて台無しにしてしまった。
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