発表会
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「気持ちはわかるけど、どうしましょう?ちゃんと歩けますか?」
「まえが‥‥よく、‥‥ひっく‥‥みえ、ない‥‥」
そんなわけでお辞儀もちゃんとできないまま、肩を抱かれて舞台袖に引っ込んでしまった。
控え室までは、暗い上に涙で前もに録に見えないから、ドレスの裾を踏みそうになったり、
ドアに顔をぶつけそうになったりと、とにかく大変だった。
先生に連れられて控え室に戻ると、大急ぎで来てくれたんだろう飛白が待っていてくれた。
飛白の顔を見て、途端に今までなんとか我慢してた感情が爆発しちゃって、
「ふぇっ、ふぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
私はわんわんと、大泣きしてしてしまった。
「ほんっとに楠木さんは感動屋さんなんだから」
呆れたようないつもの先生の口調に、つい口を尖らせる。
「だって‥‥1曲目でも‥‥あれだったから‥‥うれしくって‥‥」
顔をうずめたタオルの中で頑張って言い訳をしてみる。
「‥‥そんなだから、あなたは発表会にだって、出せなかったんですものね」
「ぇ………………?」
意外な言葉に恥ずかしさも忘れて顔を上げる。
「いつだって人一倍素敵な音を出すくせに、人の5倍も感動屋さんなんだから。
いつ泣きだすかと心配で、コンクールどころか、発表会にだって出せなかったのよ?」
やれやれといったふうに先生は言うけど、
ずっとへったっぴだから発表会に出られないと思っていた私にとっては、
思いがけない嬉しい言葉だった。
「だから‥‥今日もせんせが、伴奏を?」
「あなたが途中で泣き出したりしても、ほかの人じゃどうにもできないでしょう?」
そうだ、先生だから。先生が伴奏だったから、2曲目をあんなに素敵に弾けたんじゃない。
泣きそうになってた私に、アドバイスをくれて、
ベストな尽くせるようになるまで、待ってくれたから‥‥‥
「あり、がと‥‥せんせ‥‥ふぇ‥‥」
感謝の気持ちからまた涙が溢れてしまって、私の顔はタオルに逆戻り。
「あなたはもう少し、その泣き虫をなんとかしないといけないわね」
「っく、は‥‥い‥‥」
タオルの中でこくこくと頷く。
「楠木さんの付き添いの方、私は樹と申します。お名前を伺ってもよろしいかしら」
「申し遅れました。飛白といいます」
お店では見せないような、キザじゃなくって少し礼儀正しい飛白の声音。
「飛白さん、この子はね、とっても感受性が強くって、すごく泣き虫だけど、
自分の心の痛みだけは、我慢しようとする悪い癖があるの。
ご両親が、亡くなった時もそうだったわ。辛いはずなのに、練習をお休みしなかったの」
少ししんみりした先生の口調に、心配されていたことが伝わって来る。
あの頃、先生はそんなこと一言だって言わなかったのに。
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