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BloodTeaHOUSE
発表会
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楽しかったよ」

にこにこ笑う飛白は、ほんとに何でもないように言うけど、
ピンもスプレーもなしで、よくこんなにきれいにまとまったと感心しちゃう。

「このお花、花束からとってきちゃったの?」
「飾られて枯れてゆくだけなら、君の傍のほうがいいと思ったんだ。
 それより、ご要望どおり”これ”は使わないですませたよ」

コツンと指ではじいたのは、最終手段のハードジェル。髪の毛、固めないでくれたんだね。

「飛白が来てくれて良かった。…その……さっきはごめん……八つ当たりしちゃって……」
緊張してたからって、滅茶苦茶なこと言っちゃったよね。

「じゃあお詫びに、G線上のアリアを 僕にプレゼントしてくれるかい?」
「くすっ、わかった。飛白のためだけに G線上のアリア は弾くね」

あんなに緊張してたのが嘘みたいに、笑い合う。
泣きながら帰っちゃおうかって思ってたのが嘘みたいに、今は出番が楽しみ。

「楠木香澄さん、次出番です。舞台袖に来てください」

「行ってきます!」
「行ってらっしゃい、僕は客席で聴いてるよ」

舞台袖に行くと、練習の時間が何度か同じになったことのある子が弾いてる。
曲が終わり、その子が一礼をすると、パラパラを拍手が起こる。
発表会だし、そんなもんだよね。会場が割れんばかりの拍手なんて、甘い期待はしない。

「さ、楠木さん。行きましょうか」
「はい、先生。よろしくお願いします」

伴奏者と一緒に舞台袖に帰ってきたその子と入れ違うように舞台へ上がる。
先生が登場しただけで会場内がざわめいちゃって、焦っちゃう。

「慌てなくていいですからね。いつもの練習のように調弦から始めましょうか」
「は、はいっ」
先生は私をリラックスさせようと、優しい言葉をかけてくれる。

ポ―――…ン

ピアノの音に合わせて、調弦を始める。耳を澄ませて調弦をしている間に、
すっかりホールも静まり返って、
私の心もちゃんとリセットされたんだから、やっぱり先生ってすごい。

舞台の空気を作るのがすごく上手。さあ、楽しい音楽の時間の始まりですよって感じ。

まず最初の曲は ”愛の挨拶” イギリスの音楽教師だったエドワードおじさん、
あなたの愛の挨拶を、お客様への挨拶に使わせてもらいますね。

少し堅物だった教師のエルガーらしく、折り目正しくお辞儀をしてから、弾き始める。

今日あなたたちに会えてよかったです。今を共有できてとてもうれしいです。
僕は詩人じゃないから、言葉で想いは伝えられないけれど、
音楽としてこの日の喜びを残しましょう。
だからどうかみなさん、この日出会えた喜びを分かち合いましょう。
どうかこの音色を楽しんでください。素敵な旋律を聴いてください。
今日、あ
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