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女傑
10部分:第十章
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だ。よいな」
「はっ!」
 家臣達はそれに応える。そして彼等も戦いに向かう。
 戦いはその日のうちに終わりを迎えようとしていた。カテリーナは最後のあがきに塔内の弾薬庫に火を点けさせたがこれはかえってその煙で自身の兵達の士気を衰えさせてしまった。彼女にしては珍しい戦場での判断ミスであった。
 このミスがなくとも趨勢は決まっていた。彼女は塔内でも次第に追い詰められ最上階にまで達していた。そしてそこで遂にチェーザレの降伏勧告を受け入れたのであった。
「ようやくですな」
 最上階の一室でまだ傲然と胸を張っているカテリーナに対するチェーザレの言葉であった。
「貴女は私のものです」
「それでどうされるのですか」
「まずはこの城塞を出ましょう」
 チェーザレは優雅な物腰でそう述べてきた。まだ戦塵立ち込める塔の中で場違いなまでに優雅な様子であった。
「全てはそれからです」
「恥はかかせないというのかしら」
「勿論です」
 チェーザレはその優雅な物腰のまま答えてきた。
「少なくとも貴女に対しては」
「その言葉真実と受け取っていいのかしら」
「それは御勝手に」
 何故かここでは言葉を突き放してきた。
「ですが私の応対は変わりません」
「そう」
「はい。ではこの塔を下りられますね」
「ええ」
 カテリーナはその言葉に頷いてきた。急に言葉の語気が弱まってきていた。
「そうさせてもらうわ。それで」
 語気がさらに弱まった。それはチェーザレにもわかった。
「後は・・・・・・」
 最後まで言うことは出来なかった。カテリーナは遂に崩れ落ちその場に倒れ込んでしまったのであった。チェーザレはそんな彼女から目を離すことはなかった。
「誰かいるか」
 彼はすぐに人を呼んだ。
「はい」
 すぐにフランス軍の隊長の一人がやって来た。濃い髭の厳しい男である。チェーザレに比べると服装も雰囲気もかなり野暮ったい。この時フランスはまだ欧州においては田舎の大国といった感じであり文化的な先進地域はやはりイタリア半島であったのである。
 チェーザレは彼に顔を向けた。そして彼に対して命ずるのであった。
「伯爵夫人を城外にお連れしろ」
「ここではなくですか」
「そうだ。もう戦いは終わった」
 チェーザレは一旦窓の外に顔をやった。勝ち鬨があがり戦いが終わったことがはっきりと伝わってくる。
「もう残ることはない」
「わかりました。それでは」
「ではな」
 ここでチェーザレは動いた。そしてカテリーナの肩を担いだ。
「行くとしよう」
「あの」
 彼が肩を担いだのを見てその髭の隊長は目をしばたかせていた。
「公爵様が持たれるのですか?」
「一方はな」
 チェーザレは隊長にそう返した。

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