第二食
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」
至極まじめな顔でメモを取っていた。無意識なのか口の中で呟きながら必死にペンを走らせるなおとはえりなの視線に気づいたのか、ぱっとメモを取る手を止めて姿勢を正した。
「今日もありがとうございました。これで失礼します」
礼儀正しく頭を下げると、まだ残っている皿を下げて速やかに退出するため無言で扉へ歩いていく。
えりなとなおとの間にはこの程度のコミュニケーションしかなされない。それはえりなが一方的に会話をする気力を削ぐような雰囲気を醸し出しているからなのだが、それでもお互い5歳の少年少女、やはり不自然な光景だ。
その原因はえりなの気持ちだった。
今、私に必要とされているのは神の舌。料理を食べて、吟味するだけの、機械。余計な物を挟む余地は、許されない。
幼くして味見役として五十を超える一流料理店と契約している。味見のために呼ばれて、そこで新作の料理を食べ、審判を下すだけ。その場にえりなの童心は必要とされていない。そんな環境に置かされ続けたえりなは滅私をしなければならない、という一種の義務感を植えつけられてしまっていた。
それも当然。味見をして欲しいから呼んでいるのに、どうしてただの子供の戯言に耳を傾けなければならないだろうか。呼んでいるのは神の舌であって、子供じゃないのだ。
必要な事項以外はしゃべらない。それが子供に求められている唯一の事だった。
だから、いつも通りだったら黙って去り行くなおとの背を眺めているはずだ。
だけど、今回は違った。
「待ちなさい」
いきなり呼び止められたから、というよりもえりなから話しかけてきたのに驚いたのだろう。なおとが目をまん丸に開いて振り返った。そこに上辺面の礼儀は無く、年相応の不恰好さがあった。
初めて見るなおとの子供らしさに新鮮さを覚えるも、えりなは訊ねた。
「はっきり言いますが、君に料理人としての才能は無いわ。最低でも四回も料理をしているのに、未だに基本的なことが出来ていない君が、どうして料理をしようと思うのかしら?」
皮肉のつもりで言ったのではない。単純な疑問だった。
えりなは知っている。薙切家でなおとがどんな立場に置かれているのかを。何もなおとだけが比較されているのではない、その対象であるえりなもまた比較されているのだから。
えりなが神の舌で活躍すれば、毎度のように引き出されるのはなおとだ。やれ才能が無いだの、やれ生意気だの、やれ何で薙切の名を背負っているのかだの、陰口のバリエーションは両手だけでは全然足りない。これだけ言われているのだから、なおと本人の耳にも入ってるだろう。
なのに、何で料理をしていられるんだろう
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