第二食
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液に味付けしただけのものを、プレーンオムレツと呼ぶ。つまり、基本的な調味料以外では全く味付けすることを許されない料理でもある。あまり食にうるさい人は気にしないだろうが、調理途中に工夫を織り交ぜていくことでオムレツの味は芳醇になっていく。それを可能とするのが料理人の腕である。
約一秒で第二審査まで終わらせたえりなは、遅れて出された銀のスプーンを手に取る。黄金の生地は押してくるスプーンにささやかながらの抵抗を示すが、それも束の間、すっとスプーンが入る。指先に伝わってくる柔らかさに自然と心が躍る。
一口分のオムレツを掬い上げ、まずはケチャップを付けずに舌に乗せてみる。
が。神の舌は絶叫を上げた。
「まずい……」
「うっ……」
今までなおとが出してきた料理を食べてきたが、そのどれも第一声が「まずい」である。これはえりなの意思に関係無く、もはや舌がえりなの体を操作するように吐き出す言葉であった。
猛烈な不味さを舌が伝えてくるが、ひとまず無理やり飲み下して一息付く。それから左後ろに控えているなおとを視線だけで傍に来るよう促す。
自分の渾身の一品をやはり貶され悲しみの色を浮かべるなおとだが、えりなの促しを素直に拾い傍に寄った。えりなとしてはここでオムレツを顔面にぶつけてやりたいところだったが、それをすると駄目だしをきちんと聞いてもらえない可能性があるので、ぐっと堪えて代わりに言葉をぶつける。
「全般的になってないわ。フライパンの使い方、バターの量、火加減の調整。こういった基本的な調理技術が未熟すぎる。一番酷いのは砂糖の分量ミス。きちんと計量スプーンを使ったのかしら? 例えきっちり計っていても投入するタイミングやポイントを抑えてなければ話にならないのよ。これぐらいの知識はそこら辺の参考書にも書いてあると思うのだけど」
容赦無く毒舌を振るうえりな。超一流の料理人が作った料理にすら文句を付ける神の舌は、相手が同い年の子供でも容赦しなかった。すらすらと紡がれる指摘、そして織り交ぜられる毒舌は数多の料理人の希望と自信を圧し折り、絶望のどん底へ突き落としてきた。
今回は嫌な追憶をした分、気が荒立っているえりなはいつもに増して毒の濃度を高めて文句を付け続けた。
言い終えた後改めて思うと、さすがに無駄な罵倒が含まれすぎていたような気がした。審査員として審査する料理に対してのみコメントしなければならないのに、自分としたことが少々不覚を取った。それに自分の渾身の出来を完膚なきまでにダメだしされるのは、一流の料理人でも傷つくことだ。この前も激昂されたりもした。
これで泣かれたりすると面倒だと若干自分のミスを棚上げにしてなおとを見やると──
「……なるほど、あれがいけなかったんだな……
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