第二食
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この場合に限って、それは欠点とも言えただろう。その事実に気づかず日々を送れていたなら、こんなに苦悩する必要が無いのだから……。
事実を悟ってしまった薙切えりなは、その日から笑わなくなった。
◆
「はぁ……」
夜になった。詳しい時刻で言うと23時20分。あと10分もすれば地獄の時間が始まる。ちなみに、これで四日目の地獄である。
思わず鬱になり、自分一人しかいない自室に重い溜息が木霊する。それと同時に昨日味わった酷い味を舌が思い出し、何も食べていないのに吐きそうになる。
神の舌はとても傲慢だ。本当に美味しい物しか受け入れない。それ以下の物は容赦なく拒絶する。だから、ちょっとした間食をしたくとも傲慢な舌が納得する物でなければ咀嚼するのもままならない。テレビで見かける駄菓子のCMとか見ると葛藤に陥ってしまうくらい深刻な問題である。
当の神の舌は「あ、ワシ美味しいのしか無理だから。昨日のとかマジ無理だから」と口の中で親父寝入りを決め込んでいる始末。この舌さえなければと恨めしく思うのはいい加減飽きてきた。
溜息が部屋に溶け込んだ後に残るのは時計の無機質な知らせのみ。とくにしたいこともないのでただ黙って椅子に座って地獄の時間の到来を待つ。そして少しの物音すら大きく聞こえる部屋に、少々大きすぎるノック音が飛び込んだ。
「どうぞ」
「失礼します」
大人びえた口調とは裏腹に襖の奥から現れたのはとても小さな男の子だ。小学生にもなっていないであろう幼い男の子は、やはり大人顔負けの礼儀正しさを振舞って入室してきた。その小さな手には一皿乗せてあり、少量のケチャップと共にスクランブルエッグが湯気を立てていた。
その少年の名前は薙切なおと。えりなが生まれるよりちょっと前に薙切家に養子として引き取られた、血の繋がっていない兄。腹違いだから当然だが、ハーフのえりなは日本人には無い外人らしい金髪に対し、なおとは生粋の黒髪。ただし顔は東洋人らしいもののどこか離れた整いがある。
そんななおとが手に乗せる皿は、これから行われる拷問器具である。見た目だけで味わえたらどれだけ良かったことか。あんなに美味しそうなのに、口に含んだ途端に幻滅するなんてどんな拷問だろう。
「無理無理無理! 言ったじゃん! ワシ言ったじゃん! 無理って言ったじゃん!」と昨日の食事を思い出した神の舌が早々に悲鳴を上げ始める。そのクレームを受け付けるえりなは渋面を作りそうになるも、さすがに何も食べていないのに顔を顰めるのは失礼だと言い聞かせ鉄仮面を被る。
「座ってどうぞ」
「ありがとうございます。ですが、僕はこのままで」
えりなの勧めを丁重に断り、えりなの座る椅子の隣まで歩み寄ると
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