第十二夜「前奏曲」
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な!じゃ、その前に一仕事すっか。」と言うが早いか、手際良く場所を確保した。ランプ用に大きめの石まで近くに運んできてある。
ほんと、こういう時は便利よねぇ、なんでも出来る人って。
その場所に二人で座ってランプを石に上に乗せ、今度は私が手早くお弁当を開けて並べた。
ランプの明かりが柔らかく照らし、時季は違うけど、ちょっとしたクリスマス気分になる。
「うっわ、旨そぅ〜!」
浩司は子供みたいにそう言った。そりゃそうでしょ?浩司が好きなものばっかりだもん。
「はい、お茶。」
そんな浩司に、水筒からお茶を出して渡した。
「あ、サンキュッ!さて、どれから食べるかなぁ〜?唐揚げからだな。いっただっま〜す!」
「はいはい、た〜んと召し上がれ。」
私はなんだかお母さんっぽくなって、ちょっとおかしかった。でも、ほんとに美味しそうに食べてくれるわね。
「すっげぇうめぇよ!この唐揚げ!卵焼きなんてフワフワで、絶品だぜ!」
彼はいつもこうなの。私を褒め過ぎるほど褒める。本当なのか社交辞令なのか…。
「翠は絶対いい奥さんになれるぜ!」
この言葉に、ちょっとドキッとした。
―もうっ!紫苑姉や爛兄があんなこと言うから、意識しちゃうじゃないの!―
大丈夫、いつもの様にしてればいいんだから…。
「お茶のおかわりは?」
「ああ、ありがと。」
そうやって手渡されたカップが、やけに温かく感じるのは…気のせいよ。
私はそのカップにお茶を入れて浩司に渡した。心の中でちょっと、ほんのちょっとだけ、指先が触れてお茶を零すシーンを描いた。でも、そんなことあるはずもなく、何となく空を見た。
「…うわぁ…!」
満天の星空…その表現がピッタリだった。
―ここって、こんなに星が見えたんだ…!―
とても感動した。いつも見ている夜空が、まるでハリボテの様な気さえする。
「ここってな、ほんとは冬の方がもっとキレイに見えるんだ。まぁ、ちと寒いけどな。」
浩司がカップを持ったまま、一緒になって空を見上げながら言った。
私はなぜか『不思議の国のアリス』を思い出していた。アリスが白いウサギを追って、不思議の国に迷い込む…。全く違うけど、今の私ってアリスなんじゃないかなぁって、思っちゃったりしてた。
だって、この満天の星空にランプの淡い光が創りだす風景って、すっごく素敵じゃない?
そして、その中にいる彼…。
「何?俺ん顔に、何かついてる?」
急に浩司がこっちを見た。私ってば、ずっと浩司を見てたみたい…。
「ううん、何にも付いてないよ?ちょっとボゥーッとしてただけよ。」
私は苦笑いをしながら、再び星空を眺めた。
「なぁ、翠。もし、俺がここに誘ったのって、ほんとは星見るためだけじゃ無かったとか言ったら、怒るか?」
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