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幻影想夜
第十一夜「君、想う」
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 まるで膿んだものを出し切るように、僕は何度も言葉にした。

―こんな想いするんだったら、諦めるんじゃなかった!―

 もう、どれだけ後悔したって遅い。ランダムに過ぎて行く時間は、躰や心さえも削ってゆく様な気がした。
「君に逢いたいよ…っ!」
 止め処なく流れる涙を拭うこともなく、揺らぐ月を眺めてる。
 なぜこんなにも、君を求めてしまうのだろう?
 ただ…逢いたい。声を聞きたい。そして…君に触れたい…!
 僕は汚い人間だ。君を抱きたくてしかたないんだ!他の誰かに抱かれるなんて、考えられない。考えたくもないっ!

―嫌だ、嫌だ、嫌だぁっ!―

 歯止めのきかない心が、無数の想いを映し出してゆく。

―誰か殺してくれっ!楽にしてくれっ!―

 苦痛だった…。僕にはこの日常が苦痛だったんだ。ドライブしてるのはただ、どこかへ逃げたかっただけなんだ…。
 逃げる場所なんて、端から無いくせに…。
 一人だった。ただ、一人だった。あの部屋へ戻っても、冷たい空気の中で、君を想ってしまう。
 いや、どこでだって同じだ。近かろうと遠かろうと、ずっと想い続けてしまうんだ…。

 月が幽かに嗤っている様に見えた。


   *  *  *


 どのくらい経ったのだろう。もう泣き疲れてしまった僕は、涙を拭って駐車場を後にした。

―さぁ、帰ろう。―

 月は僕の後を付いてくる。

―あの路は通らないように、廻り道するかなぁ…―

 あの冷たい部屋へ向かって、アクセルを踏み込んだ。

 ただ、それだけの日々。繰り返される時間の狭間に呑まれてる様な…そこに意義を見つけることの無い一日。
 またカセットをかけた。

―誰かが待っている時が来たら、僕にはこの曲がどんな風に聞こえるんだろうな…?―

 古びたカーステレオから流れる女性ヴォーカルは、妙に切なく響く。
 いつか…この痛みは消えるんだろうか?
 いつか…

 君想う一日を、優しく思い出せるように…。


「さよなら。」 



       end...




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