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左慈
3部分:第三章
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え、よいな」
 夏侯惇と曹洪にそう命じる。二人はそれを受けてすぐに動いた。彼等は兵を連れて左慈の捜索を開始した。やがて許都のすぐ外の草原で彼が見つかった。
「いたぞ、あそこだ」
 兵士の一人がそう叫ぶ。それを受けて曹洪が馬に乗り兵士達を連れてそこに急行した。するとそこにあの男がいた。曹洪は彼を見て叫んだ。
「殺せ!」
「ハッ!」
 それを受けて兵士達が動く。曹洪も剣を手に向かう。だがここで左慈は羊の群れの中に入り込んだ。
「ムッ!?」
 見ればそこで左慈は消えた。曹洪はそれを見て左慈が羊に化けたものだと考えた。そこでその羊達の主である若い羊飼いに対して言った。
「済まないが羊の数を数えてくれないか」
「わかりました」
 その羊飼いは頷いてそれに応えた。そして数えてみると彼は不思議そうな顔をした。
「おかしですね」
「どうしたのだ」
「いえね、羊が一頭多いのですよ。おかしいなあ」
「そうか、多いのか」
「はい。何故なんでしょう」
「理由はわかっている」
 曹洪は彼に対してそう答えた。
「わかっておられるのですか?」
「うむ。こちらの事情でな。さて」
 彼はここで羊達を見据えた。
「巧く化けたつもりだろうがそうはいかぬ。さあ覚悟しろ」
「ほっほっほ」
 だがここで笑い声がした。見れば羊の中から聞こえてきた。
「覚悟しろとは私に対してですかな」
 そしてその中から一頭の羊が出て来た。異様に大きく白い羊であった。
「羊がしゃべった」
 羊飼いはそれを見て驚きの声をあげた。曹洪はそんな彼に対して言った。
「案ずるな、あれは妖術使いだ」
「妖術使い」
「そうだ。だから下がっておれ。よいな」
「わかりました」
 羊飼いはそれを受けて下がった。曹洪はそれを確かめるとあらためて左慈が化けたと思われる羊を見据えた。
「覚悟はよいな」
「ほっほっほ」
「何がおかしい」
「まさか私が左慈だと思われているのですかな」
「何!?」
「私は左慈ではありませんぞ」
「馬鹿を申せ」
「いえ、それが証拠に」
 ここで別の羊が声をあげた。
「私が左慈なのですから」
「何!?」
 それを聞いてさしもの曹洪も思わず声をあげた。
「私もです」
 別の羊もそう言った。それを見た兵士の一人が羊飼いに対してこう問うた。
「御前の羊は人の言葉を話せるのか!?」
「まさか」
 羊飼いはその問いに首を横に振って応えた。
「そんな筈がありません」
「そうであろうな」
 兵士も馬鹿な質問をしたと思った。曹洪はそれを見てまた言った。
「それではだ」
 彼は今度は羊飼いに対して言う。
「はい」
「一体どれが御前の羊なのだ?生憎わしにはわからん」
「それでしたら」
 彼はここで頷いた。そして笛を吹いた。する
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