3部分:第三章
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一体どういうことだ」
それを見てさらに驚かされた。左慈は悠々と笑ったまま動きを続ける。まずは曹操に申し出た。
「この杯で飲みませんか」
「その酒をか」
「はい。これから長い間御会いすることはないでしょうから。折角の別れの杯に」
「わかった」
彼は頷いた。この時彼はまず自分が先に飲むものだと思っていた。だがそれは外れた。まずは左慈が飲んだ。それから彼はその杯を曹操に手渡した。見ればその中の酒は二つに分かれていた。
「さあ、どうぞ」
「うむ」
頷いてみたもののどうも飲む気にはなれなかった。無気味な感じがしてならなかたからだ。
暫く持ったままにしていると左慈が声をかけてきた。
「明公」
「何じゃ」
「また面白い余興をお見せ致しましょうか」
「余興を」
「はい。それではその杯を」
「うむ」
曹操はそれに従い杯を左慈に戻した。すると彼はそれを受け取るや否やすぐに棟に投げ付けた。
「!?」
今度は何をするのか、と誰もが思った。すると杯は宙に浮かんでいた。ゆらゆらと揺れながら浮かんでいる。
「杯が宙に」
「これも術なのか」
「如何にも」
左慈は答えた。見れば杯はそのまま宙に浮かんだままであった。
「さて、この杯を御覧下さいませ」
「むむむ」
曹操だけでなくその場にいた全ての者が見ていた。杯はそのまま宙をゆっくりと飛びはじめた。それはまるで雲の様であった。
「これからどうなるのだ」
「飛んだままか!?」
皆考えはじめた。何時しか左慈のことは完全に忘れてしまっていた。
やがて杯はことりと床に落ちた。そしてその頃には左慈は何処かへと消えてしまっていた。捜してみたがやはり何処にもいなかった。曹操はそれを聞いてさらに左慈を殺そうと決意した。
「こうなっては許してはおけぬ」
曹操は家臣達を集め怒りに満ちた顔と声でそう言った。赤い服がまるで炎の様に見えた。
「お待ち下さい」
だがそんな彼を制止する者がいた。彼の参謀の一人である程?であった。
「程?か。どうしたのじゃ」
「あの左慈という者ですがさしあたっては放っておいてもいいと思うのですが」
「何故じゃ」
「確かに明公のお怒りはわかります」
「当然じゃ。何を今更」
誇りを傷つけられて黙っているような曹操ではない。彼の怒りは止まるところを知らないものであった。彼は激情家でもあるのだ。彼は政治家、軍人であると共に優れた詩人でもあった。詩は豊かな感情なくしては書くことは出来ない。今はそれが裏目に出てしまっていた。
「ですがあの者は明公に何か害を為したわけではありませぬ」
「私を侮辱してもか」
「はい。ここはどうか堪えて頂きたいのです」
「ふむ」
感情的ではあるが家臣の言葉を聞き入れないというわけではなかった。曹操は柔軟な考えも
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