3部分:第三章
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曹操はそれを見て頷いた。表向きはやはり何事もなかったように取り澄ましていたが内心は左慈に対する殺意がより高まっていた。
「もう一つ思い出した」
「何でしょうか」
「益州の生姜じゃ。これはあるかな」
「生姜ですか」
「そうじゃ。わしはあれが好きでのう」
曹操はニヤリと笑いながら言った。
「じゃが手には入りはせぬだろうな。今あの地は賊の手に落ちておるからな」
「はい」
夏侯惇はそれを聞いて頷いた。今益州は曹操の宿敵の一人劉備の勢力圏となっていたのである。彼は皇族ではあるが曹操と敵対していたのだ。
「流石にこれは無理じゃろう」
「お安い御用です」
左慈はそれを聞いてしれっとした様子でそう言った。
「まさか」
「幾ら何でもそれは」
「いやいや」
周りの者の言葉にも左慈は動じていなかった。彼はここでまた懐に手を入れた。そして生姜を出したのであった。
「これで宜しいでしょうか」
「うむ」
曹操は憮然とした顔で頷いた。
「御苦労。それでは早速そのスズキと生姜を料理するとしよう。左慈よ、感謝する」
「有り難うございます」
左慈はそう答えて頭を垂れた。スズキと生姜は奥に運ばれていく。そして曹操は彼に対してまた声をかけた。
「ところでだ」
「はい」
「このスズキと生姜の礼をしたい」
「何でしょうか」
「褒美をとらす。何でも好きなものを申してみよ」
「褒美ですか」
「うむ」
曹操は頷いた。
「それでは酒を一杯頂きたいのですが」
「酒をか」
「はい」
左慈は微笑んでそれに答えた。
「そんなものでよいのか」
「はい」
「言っておくがもっといい褒美が他に幾らでもあるのだぞ」
「私は元々欲のない男でして」
彼はそう答えた。
「それで充分でございます」
「そうか」
曹操はそれを聞いて頷いた。
「それでは酒ととらそう。熱いのでよいか」
「はい」
「それでは」
曹操は酒に燗をするように命じた。程なくして酒が運ばれてきた。
「さあ、飲むがよい」
「有り難うございます。それでは」
彼はここで冠の簪を抜き取った。そしてそれを杯の中に入れた。
「ん!?」
皆それを見て不思議に思った。
「何をしておるのか」
曹操もそれは同じであった。彼は眉を顰めさせて左慈に問うた。
「少し趣向を」
彼は笑ってそう言葉を返す。見れば簪はまるで墨を磨る様に消えていく。そして遂には消えてなくなってしまった。
「これでよし」
彼はそう言うと杯から手を引いた。するとそこにはあの簪があった。
「何と」
「これはまた」
皆それを見て驚いた。だがそれで終わりではなかった。
左慈は今度はその簪で杯の中の酒を切った。すると杯の中の酒が二つに分かれたのであった。
「酒が二つに」
「
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