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左慈
3部分:第三章
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私に怖れを抱いておられるからです」
「また馬鹿なことを」
 曹操はそれを聞いて笑ってみせた。
「何故幾多の戦場を駆け巡ってきた私がそなたの様な老人を怖れなくてはならぬのだ。冗談にしては度が過ぎるぞ」
「それではお暇して宜しいですな」
「うむ」
 こうなっては引くことは出来なかった。彼は渋々ながらそれを認めた。
「それでは行くがいい」
「わかりました」
 こうして左慈は曹操の元を去ることになった。曹操はここで度量に広いところを見せ彼の為に宴会を設けることにした。宴は豪華なものであった。曹操はここで文武の百官を集め宴を催した。並ぶ酒も料理も豪勢なものであった。
「どうかな、この宴は」
 曹操は得意な顔で左慈を見た。
「豪勢なものであろう」
「そうですな」
 左慈はいつものあのにこやかな笑みでそれに応えた。
「この魚も美味しいですし」
 彼はここで鯉を口にしていた。曹操はそれを見てふと気付いた。
「そういえば松江のスズキがないのう」
「そういえばそうですな」
 他の者もそれを言われて気付いた。
「ただあれは季節ではないですし。それ程御気にかけることもないかと」
「そうだな」
 曹操は腹心の部下である夏侯惇の言葉を聞いて頷いた。曹操は元々夏侯氏の血を引いている。彼の家は漢王朝の功臣の一人である曹参の家であるが祖父が宦官であり父は夏侯氏から養子に入ったのである。その為彼は曹、夏侯二つの家とつながりがあるのである。なお夏侯氏もまた漢王朝の功臣の家である。この夏侯惇は曹操の腹心中の腹心であり曹操の家臣の中ではかなり高位に位置していた。隻眼の名将である。
「それではそれは置いておくか」
「はい」
「お待ち下さい」
 だがここで左慈が出て来た。曹操はそれを見て内心嫌な顔をした。だがそれを表に出すわけにはいかなかった。今は宴の場なのである。
「何だ」
 彼は表向きは表情を変えず彼に尋ねた。
「明公は松江のスズキをご所望ですな」
「いや、別に」
 彼はそう言って断った。
「季節ではないしな。それにこの許都では手には入らぬ」
「季節であって手に入ればいいのですな」
「まあな」
 彼はここでいぶかしがりながらもそれを認めた。
「手に入れば、だぞ」
「わかりました」
 彼はそれを聞いて頷いた。そして懐から銅盤を取り出した。
「何処からあんなものを」
「よく出してきたな」
 宴にいた者はそれを見て首を傾げた。だが曹操はそれでも表情を変えず左慈を見ていた。
「それをどうするのだ」
「まあ御覧下さい」
 今度は釣り糸を出してきた。そしてそれを銅盤に垂らした。するとそこから見事なスズキが釣られた。
「これでどうですかな」
 左慈はその釣ったスズキを曹操に見せて問うた。得意な顔であった。
「ふむ」
 
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