1部分:第一章
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な)
馬を使うことにした。それならば例え逃げても追いつくことができる。だがそれは必要ないかと思った。左慈は足が悪いのである。だが彼はここで思い直した。
(用心には用心を重ねるか)
そういうことであった。彼はことには万全を期すつもりであったのだ。見れば左慈はまだ椿を見ていた。雪の様に白い椿であった。
「綺麗なものですな」
「この庭で最もよい椿です」
孫策はそう受け答えた。ここで左慈はぽつりと言った。
「私は白い椿が好きでして」
「ほう」
「赤いのはどうも。血を思い出しますからね」
「血、ですか」
「はい」
左慈は何も気付かないような顔でそれに答えた。
「孫策様もそうではありませんか」
「いえ、別に」
そう断る。その時心の中である疑念が浮かんでいた。まさか気付いているのでは。だがそれでも今更止めるつもりもなかった。彼はあらためて左慈に対して言った。
「あちらはどうですか」
「あちらですか」
「はい。江でも見て。ここから見える江は見事なものですぞ」
「それでは御言葉に甘えまして」
彼はそれを受けて椿から離れて江に向かった。孫策はそれを好機と見た。
(よし)
彼は馬に飛び乗った。そして腰の剣を抜く。それで彼を一思いに切るだけであった。見れば左慈は杖をついてゆっくりと歩いていた。間違いなく殺せると思った。
「行け」
孫策は馬を走らせた。そして左慈を追った。だがここで異変が起こった。
「むっ!?」
何と左慈に追いつくことができないのである。彼は馬に乗り左慈は歩いているというのに。彼は最初それがわからなかった。
「これはどういうことだ!?」
不思議に思った彼は馬に鞭を入れた。馬はそれを受け脚を速めた。だがそれでも左慈に追いつくことはできない。
「孫策様」
ここで左慈は振り向いて彼に声をかけた。
「どうなされたのですか」
「いや」
孫策は彼の顔を見て慌てた。気付かれている、と確信した。
「今そちらにお伺いしようとしているのですが」
「左様ですか」
左慈はにこやかに笑ってそれに応えた。
「それではおいで下さいませ」
「は、はい」
だが左慈のもとに辿り着くことはできなかった。彼はさらに馬を走らせてそこに向かう。だがそれでも行くことはできなかった。流石にこれには参った。
「左慈殿」
「はい」
左慈はやはりにこやかに笑って彼に応えた。
「そちらに行っても宜しいでしょうか」
「どうぞ」
彼がそう言うと馬は一瞬にしてその側にまで来た。馬も孫策ももう肩で息をしていた。
「御苦労様です」
やはり左慈は笑っていた。孫策にはその笑みが何によるものかよくわかかっていた。そして彼は諦めた。それから彼を普通にもてなした。そして彼を快く送り出した。だがその顔は始終不機嫌なまま
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