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藤崎京之介怪異譚
case.3 「歩道橋の女」
Y 同日pm7:43
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見えるその顔が、地の底から響くような声で言葉を発した。
「消え失せろ…!お前には関係ない。直ぐに音を止ませろ…!」
 そう言って、女は手を振った。すると、俺は得体の知れない大きな力によって突き飛ばされた。
「グフッ…!」
 俺はその衝撃で体に激痛が走って身動きが取れない状態に陥り、体からは冷や汗が吹き出した。頭は朦朧としていて、とても何かを正確に導き出せる状況ではない。
 そんな俺の元へ、少しずつヤツが近付いてくる。
「お前さえいなければ…私はあの人と一緒になれるものを…!」
 妄執と言っていいだろう。愛した者に殺されたその悲劇は、今ここで生きている者には想像すら出来まい。
 それが記録として映像化すると…こうなるわけか…。
 だが、俺のすぐ側まで歩み寄ったその女…いや、霊は、ピタッとその歩みを止めて言った。
「貴様、その懐に何を潜ませているものは…!」
 どうやら気付いたようだ。今日俺は、ある場所へこれを譲り受けに行っていたのだ。
 俺が譲り受けたのは、とある名家に伝わる宝玉だ。
 それは行脚姫に纏わるもので、一説には姫の住んでいた土地の神社に奉納されていたものだという。
 俺は元来、こういうものは使わないが、今回ばかりは違った。
「さぁ…、もう終わりにしようか。」
 俺はそう言うとポケットから宝玉を取り出し、その宝玉に自分の指を切ってその血で五芒星を書き入れた。
「忍耐ある神、慈悲深き神、愛ある神であられる永久を統べる神よ。汝の一人児イエスの名によりて願わん。汝に仇成す者を退けたまえ!光が闇を退けるよう、我が願いを聞き入れたまわんことを…!」
 俺がそう言い放つと、掌の宝玉が眩いばかりに輝いた。
「あ…あぁ…あぁぁ!」
 その光を浴びた霊は苦しみ悶えながら後退し、その偽りの姿は徐々に溶け出していた。
「なぜ…なぜだ…!私の…私の心は…!」
 しかし、その言葉は虚しく宙へと散った。
「グァァァァァァッ!」
 その霊は叫び声を上げて、光が四散するが如くその姿を消滅させた。それと同時に、俺の手の中の宝玉も、その役目を終えたと言う風に砕け散ったのだった。そして、在るべき風景が戻っていた。
「勝った…のか…?やけに呆気なかったな…。」
 そう呟いた時、予想外の事態に陥ることになった。
「ちょっとヤバいかな…。」
 俺の目の前で、歩道橋が中央から崩壊し出したのだ。
 俺は逃げようにも、体を全く動かすことが出来ないでいた。霊に突き飛ばされた時、どうやら背骨を痛めてしまったらしい…。
「洒落にならんな…。ここで…終わりなんて…」
 演奏してるみんなは、この倒壊に巻き込まれることはないだろう。しかし、俺は無理だ。足が言うことをきかないのだからな…。
「あの霊の…置き土産ってことか…。祈る時間くらいはあるか…。
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