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藤崎京之介怪異譚
case.3 「歩道橋の女」
Y 同日pm7:43
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み寄って言った。
「天宮さん、私はやはり歩道橋へ行きます。そこでお願いなんですが、そのランプをまた貸して頂けませんか?それから、指揮もお願いしたいのですが…。」
「それは構わないが…。大丈夫なのか?これだけ空気が澱んでいるんだ。まるであの時の様じゃないか…。」
 そう、あの廃病院事件の時と同じだ…。空間が歪められ、どこまでが現実なのか分からない…。それを計算に入れて五ヶ所の結界を強化すべく、俺は演奏する曲と演奏者を指示したのだ。
 しかし…だ。この音楽による結界が、一体どれ程の効果をもたらすかは未知数と言える。
「天宮さん、俺は大丈夫です。それより、演奏の方を宜しくお願いしますよ。」
「そうか…、分かった。」
 そうして俺は、天宮氏に一礼すると歩道橋へと赴いた。
 空気が重く、それが体に纏わりつくような感じがした。足は重く、まるで水の中を服を着て歩いているようだ。
「クソッ!」
 俺は纏わりつく空気に抗いながら進んでいると、途中から急に体が軽くなった。こちらの演奏が始まったのだ。
 その時、闇の中から何かの苦しむ声らしき音が響いてきた。俺は覚悟を決め、一歩ずつ階段を登って行くと、そこには一人の女の姿があった。
 だが、その姿は二重になっていて、まるで映像がダブって見えるようだった。
 暗闇の中で青白く浮かぶその女は、俺を見ると血走った目を見開いた。
「なぜ…邪魔をする…」
 その声は重々しく、地の底から響くような感じがした。
「なぜ…なぜ…」
 尚も問う女に俺は答えた。
「お前はお前ではなく、過去は今ではない。過ぎ去りし幻影、在りし日の回想、失われし哀歌。追う者は、もはやお前ではない!」
 俺の言葉に、女は震えるような声で言った。
「お前に何が分かる!(汝には分かるまい!)捨てられた者の気持ちなぞ!(棄てられた我の想いなぞ!)世界は狂えばいいのだ!(世なぞ朽ちればいいのじゃ!)」
 女の発する声が二重になって響いた。もう一人の女…行脚姫の声…。
「なぜ…なぜ…なぜ…!」
 それは悲痛なほどの念と言えた。これだけの念を遺すには膨大なエネルギーが必要だろうが、彼女…いや、彼女達は自らの命を代償とし、この念を世に留めたと言えるかも知れない…。
 恐ろしいとは言え、それはまた哀しく憐れなものでもあった。その想いが強ければ強いほど、悪霊に利用されやすいのだが…。
「しかし、もう苦しみと哀しみの連鎖は終わりだ。」
 俺がそう言って近付こうとした時、突如その女が立ち上がって顔を顕にした。
「な…っ!」
 俺は、それを見て息を飲んだ。それは怖いなどと生温い表現では追い付かない代物だった。
 その顔はまるで肉塊のようであり、目鼻や口がどこにあるかすら分からない。皮膚は爛れて血が吹き出し、まるで煮えたぎるマグマのようにも
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