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藤崎京之介怪異譚
case.3 「歩道橋の女」
V 同日 am10:43
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何を演奏するんですか!?」
 ま、噛み付かれるとは思ったが、ここまで想像通りだと笑えるな。さすがは“ヴォルフ君"だよ…。
「葬儀ではバッハのモテットをやる。追悼演奏会では前半にカンタータ第146番と第106番、後半にモーツァルトのレクイエムだ。レクイエムにはこの街の楽団を使う。レクイエムの通奏低音にオルガンを使うが、それを君に任せる。」
「は…?」
 何とも間の抜けた返答だ。俺は少し苦笑し、再度言葉を掛けた。
「俺は指揮に専念するから、君はオルガンで俺をサポートしてほしいんだ。任せられるのは君しかいないからな。」
「は、はい!」
 多少ぎこちないが、今度はしっかりした返答が返ってきた。
 正直な話、不慣れ楽団を指揮するのはかなりのプレッシャーだ。その中での通奏低音は重大な意味を持ち、俺の考え方を知っているヤツじゃないと務まらない。
「じゃ、頼んだからな…と。」
 俺が喋っている途中、ポケットに入れていたケータイが鳴ったので、俺はそいつを取り出した。
「もしもし?」
「藤崎君か?松山だが、君に頼まれてた件、当時の資料が見つかったぞ。」
 相手は言わずと知れた松山さんだった。別れ際に頼んだことを調べてくれたようで、これで少しは真実に近付けるようだ。
「で、どういう事件だったんですか?例のサイトでは確か他殺説で話が書かれてましたけど…。」
「まぁ、そう慌てるなって。」
 松山さんはそう言って咳払いを一つしてから話始めた。
 それは今から十三年ほど前の話で、歩道橋が完成した年のことだという。
 その年の秋、性格には九月十四日の明け方に、一人の女性が例の歩道橋から転落して死んだ。目撃者はなく、争った形跡もないことから事故死と断定されたのだというのだ。
 だがこの女性、毎日の様に歩道橋に来ては、ずっと誰かを待っていたのだとか。その相手は不明とのことだ。
 女性の名は田子倉 美咲で、職業は…オルガニストだった。
 しかし、俺はここまで聞いて疑問を抱いた。
「松山さん。その田子倉って女性、階段から転落したんですか?」
「いや、中央付近から転落して緩衝帯に作られた花壇に落下していたんだ。運悪く、そこにあった石に頭をぶつけたんだそうだ。」
「では、なぜ自殺じゃなく事故死扱いに?」
 松山さんは俺の問いに、少し唸ってから答えてくれた。電話口の向こうでは、紙の擦れる音がしている。
「何だかよく分からん調査資料なんだ。理由としては所持品と共に落下していること、仰向けに倒れていたことが挙げられているが…。」
 妙だ。事故死と断定するには、あまりにも調査されなさすぎている様に感じる。仮に事故だとしたら、なんで歩道橋の手摺を乗り越えて落下したのかを検証したのだろうか?
 そんなことを考えつつ、俺は気付いたことを一つ松山さんに問った。

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