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藤崎京之介怪異譚
case.3 「歩道橋の女」
I 9.05.pm8:16
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理はどれも美味しかった。知らなければ、これが神父の手料理だとは気付くまい。プロさながらだったのだ。
 俺達は料理を堪能し、暫くは色々と話を楽しんだ。
 そこで分かったことだが、この佐藤神父は以前、プロのシェフを目指して勉強していたそうだ。
 道理で…。
「先生、そろそろ試奏を…。」
 話しの最中、田邊が小声で言ってきた。話しに夢中で、すっかり忘れていた…。
「あ、佐藤神父。これから試奏しますから、何か聞きたい曲があれば演奏しますが。」
「宜しいんですか?」
「ええ、食事のお礼と言ってはなんですがね。」
 神父は少し考えると、何かを思い出したかのように言った。
「それでは、スヴェーリンクの“我が青春はすでに過ぎ去りによる変奏曲”をお願いします。ご存知ですか?」
「勿論です。それでは…。」
 俺はそう返事をすると、田邊を連れて演奏席へと向かった。 しかし、スヴェーリンクとは…なかなか渋い選曲だな。
 このスヴェーリンクとは、バッハ以前の音楽家であり、オルガニストとしても有名な人物だ。オルガンのための変奏曲を多く残し、“我が青春はすでに過ぎ去りによる変奏曲”はその代表作に挙げられる。
 さて、俺は演奏席に座り、田邊にストップの指示を出した。ストップとは、要はオルガンの音色を決めるボタンのようなもんだ。これを組み合わせることで、いろんな音を出すことが出来る。
 俺が演奏を始めると、礼拝堂がまるで音だけの世界に感じる。教会そのものが音を生かすように設計されているようで、とても響きが良く、また雑な音を残さなかった。
 曲を終えると、神父は大喜びして惜しみ無い拍手を送ってくれた。
 試奏でも、やっぱり聞いてくれる人がいると嬉しいものだな。
 俺はその拍手に答えてもう一曲、有名なパッヘルベルの“カノン”を演奏したのだった。
「演奏会は成功間違いなしですねぇ。」
 試奏後に言われた佐藤神父の言葉が、いつまでも耳に残っている…。




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