暁 〜小説投稿サイト〜
皇帝の花
1部分:第一章
[2/3]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話

「はい、また」
「陛下、お待ちしています」
 ネロは彼等と別れ自身の宮殿に向かった。そうして市民達からありったけの薔薇を受け取りそれ等をプールに入れ、他にも使うように命じた。彼は宮殿に帰るとまずはそのプールに入った。そこには様々な色の薔薇の花びらが浮かんでいる。彼はその中で気持ちよく泳いでいた。
 その彼のところに壮健な身体つきの軍人が来た。彼の衛兵隊長であるブルズである。彼はネロの側まで来て彼に告げるのであった。
「食事の用意ができました」
「そうか、早いね」
 ネロは彼の言葉を聞いて満足した顔で微笑むのであった。それからさらに彼に問う。
「いつものようにしてくれているね」
「無論です」
 彼はすぐに主に述べた。
「それはもう既に」
「それじゃあ。行くか」
 ネロはプールから上がって言う。その身体は繊細ながら引き締まったものであった。その顔とバランスの取れた見事と言える体格であった。
 ブルズはその彼に素早く服を着せる。ローマの服である。
 服を着せられたネロはそのブルズを従えて宮殿の中へ向かう。彼の身体からは薔薇の香りが漂い続けている。
 その薔薇の香りを自分でも楽しみながら。彼はブルズに問うた。
「セネカは来ているね」
「はい、先程から」
 ブルズは厳かに主に答えた。
「もうお待ちであります」
「わかった。では待たせるのは失礼だ」
 にこりと笑って彼の言葉に頷き。そうして宮殿の中に入った。
 大理石で造られた宮殿の中の至るところにギリシア風の彫刻がある。そこには逞しい神のものもあれば美貌の女神のものもある。ネロはそういった彫刻達を眺めながら宮殿の中を進む。そうして広い一室に入ったのであった。
「陛下」 
 彼の姿を見て奴隷達がかしづく。だが彼は鷹揚に手を出して彼等に対して穏やかにするように告げた。
「そんなに畏まることはないよ」
「はっ」
「それでは」
 彼等はそれを受けて立ち上がる。そうしてその場で彼をベッドに連れて行く。この時代のローマの宴は寝たまま行う。だからネロもそれに倣い寝そべったのである。
 ブルズもそれに続く。それを見て一人の老人もベッドに横たわった。彼こそがセネカ、ストア派の学者でありネロの師でもある男である。実質的にローマの宰相であった。
「セネカ、来てくれたんだね」
「陛下の御呼びとあらば」
 セネカは愛弟子に対して穏やかに述べた。
「喜んで参上致します」
「有り難う。それじゃあいいね」
「はい」
 また弟子の言葉に応える。
「喜んで」
「私はいつも思うんだ」
 彼は自分の師に対して述べるのであった。
「こうして市民達が薔薇を贈ってくれるそのことこそ私への愛情の証なんだって」
「その通りです」
 セネカはネロのその言葉を認めた。
「陛下は薔薇
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ