暁 〜小説投稿サイト〜
幻影想夜
第十夜「祈りの対価」
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


 時代は遥か昔。一人の少年が、神に献身的な祈りを捧げておった。
 いつまでも争いの続く中、希望を見出だすことの出来ぬ世界のため、彼は祈りを捧げ続けとったんじゃ…


  ‡  ‡  ‡


「アレン、もう休みなさい。神様もきっと、そうお望みですよ?」
 優しく語り掛ける三十半ばの男性に向かい、少年は振り返った。
「神父様。そうでしょうか?僕にはまだ足りない気がしますが…。」
 アレンは俯きながら、握り締めた手を見た。
「いいえ。あなたはいつも、多くの時間を祈りに捧げています。あなたがもし倒れでもしたら、神様は悲しまれると思いますよ?だから、もう宿舎にお戻りなさい。」
 レオニー神父は優しく微笑んでアレンに言った。
「分かりました、神父様。では宿舎へ戻ります。お休みなさい。」
 アレンは神父に一礼すると、また祭壇前に行って膝を折って言った。
「神様、今日一日を感謝します。お休みなさい。」
 そう言って礼拝堂を出ていったのだった。
「いい子ですね。世界がこれ程に病んで争い続けなければ…あの子は幸福な人生が歩めた筈です…。」
 レオニー神父は祭壇に向かって言った。
「神よ!何故あの子に試練をお与えになるのですか!」
 それは小さく、悲痛な神への問いであった…。


   ‡  ‡  ‡


 ここはミレニア帝国の西の終わり。どこまで行っても平々凡々な町並みだが、全て石造りの閑静な温かみのある町だ。
 太陽が真上に差し掛かると海からの風が一気に吹き抜けてゆき、舗道に敷き詰められた特殊な石が、淡い輝きを発する。まるで、全ての息吹が解放されてゆくようだと、古き時代の皇帝に“ブレス”と言う名を頂いたとか…。それ以来、ここは「最西の町ブレス」と呼ばれるようになった。
 しかし、この閑かな町でさえ、戦争のきな臭い匂いは届いていた。

 長年に渡り、このミレニア帝国と隣国バスタム公国との間では諍いが絶えず、その上、近国のリューベン王国は両国の疲弊を狙って攻め入ろうと、虎視眈眈とその機会を狙っている有様であった。
 そのため、国民への税の取り立ては厳しくなり、子供を育てられなくなった者は子供を捨てたり、また売ったりすことが、かなり前から日常茶飯事になってしまっていた。

 アレンは捨て子であった。この教会前に置いていかれたのだ。
 彼が五歳の時、両親は彼をここに連れてきて「必ず迎えにくるから」と言い残し、そのまま帰ってこなかったのだ。
 彼は待った。日が沈み、月が昇って、またその月も沈み日が昇って…。空腹と淋しさに耐えながら…。
 レオニー神父が私用での外出時、彼は眠っていた。そんな彼を見てレオニー神父は死んでいるのではないかと心配し、声を掛けてみたのだ。
「きみ…?」
 神父は躰を揺らしてみた。
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ